第2話
「ゴブリンたち、何か呼び名はあるのか?」
……さすがに、皆にたいしてゴブリン1、ゴブリン2、と呼ぶのもな。
俺に友好的に話しかけてきたこの六体のゴブリンのリーダー的な存在は、驚いたように首を振った。
「あるわけないだろう。オレたちのような下等種族に、名前なんてないんだ!」
「……下等種族?」
「あ、ああ。名前というのはそれだけ価値あるものなんだぞ!」
……そうなのか?
「名前について少し聞きたい」
「ああ、いいぞ」
「名前をつけると、おまえたち魔物はステータスがあがるのか?」
「……もちろんだ。とはいえ、名前をつけられるほどの力を持った存在がまず滅多にいないがな」
「……なるほど」
俺はその条件を満たしている。
……召喚士のスキルだろうか? それとも他のスキルが影響しているのだろうか?
とにかく俺は名前をつけられる。
「……名前というのは気軽につけていいものなのか?」
「つける側の心境は分からないが……オレたち魔物は基本的には喜ぶな。もちろん、名前をつけるうえで何か見返りを要求されるのなら、拒否することもできるが」
……なるほど。
ゴブリア、ルフナが俺にどんな気持ちを抱いているかははっきりとはわからない。
けれど、名前に関しては拒否もできるのなら、少なくともある程度は受け入れてもらえているということなんだろう。
「色々とありがとうな。……おまえたちの村に行く前に、仲間を連れていきたい。呼んでも良いか?」
「あ、ああ……。だが、大丈夫か? オレたちを見て、いきなり襲ってくることはしないか?」
「大丈夫だ。二体とも、温厚な性格だからな」
ゴブリンが少し緊張した様子でいたので、俺が微笑みながらそういった。
……ちょっとした、悪戯心もあって、二体の種族名は控えさせてもらった。
「ゴブリア、ルフナ! 出て来い!」
俺がそういうと、二体が近くの茂みから姿を現した。
ぎょっとしたようにゴブリンたちがこちらを見る。
ゴブリアとルフナは、俺のやり取りを見ていたのか、襲い掛かることはしない。
ゴブリアはどこか愛嬌のある笑顔で。
ルフナはすっと俺たちの前でおすわりをして、警戒を解くように努めてくれた。
「紹介しよう。俺の仲間だ」
「……ま、まさか魔物使いだったのか?」
「いや……どちらかというと召喚士、だな」
「召喚士、か。どちらにせよ、魔物を使役できる力を持っているんだな……っ。というか、それなら言ってくれれば良かったのに!」
「……いや、驚いた顔が見たくてな」
俺がそういうと、ゴブリンは少しだけ怒った様子を見せた。
悪戯成功だな。
そんなことを思っていると、ゴブリンたちがゴブリアに見とれているのが分かった。
「……と、とても可憐なゴブリンだ!」
「こ、こんな可愛いの、ゴブリンクイーン様くらいじゃないか!」
「う、美しい……っ!」
どうやら、ゴブリアはゴブリンの中で見ると可愛いようだ。
俺たちは合流して、移動していく。
それにしても、ゴブリンクイーンか……ガチャのポイントになりそうだな。
「ゴブリンクイーンっていうのもいるのか?」
隣に並んでいるゴブリンに声をかけると、こくりと頷いた。
「……ああ。ゴブリンが何度か進化した姿だな」
「そうか……。俺は新しい魔物を倒すと強くなれるんだが……この辺りに生息しているのか?」
「ま、待て! ゴブリンクイーンはオレたちの村の女王だ! た、倒させやしないぞ!」
驚いた様子でゴブリンが剣を向けてきた。
……ま、まさかそうだったのか。
俺は慌てて両手をあげた。
「わ、悪い! まさか、おまえたちの村の女王だとは思っていなかったんだ。あくまで、俺は野生の魔物しか倒さないから!」
「そ、それならいいんだが……」
ゴブリンたちはほっとしたように息を吐いた。
……危ないところだったな。
別に彼らに殺されるほど俺は弱くないが、彼らと敵対するのもな……。
ゴブリンたちはこの地域に詳しいようだからな。彼らと協力するのは、決して悪いことではないだろう。
「村はもうすぐなのか?」
「ああ。……って最悪だ。マウンテンコングだ……っ」
ゴブリンが息をひそめるようにして、そういった。
マウンテンコング? 視線を向けると、確かにそちらにマウンテンコングがいた。
「……強いのか?」
「……村のゴブリン全員で挑んで、どうにか勝てるかどうか、だ。この辺りの魔物では一番厄介なんだ……そもそも、この辺りにまで来ること自体が珍しいんだが、な」
「……なるほど、な」
ちらとゴブリンたちを見る。
「も、もうダメだ……」
「こ、ここで死ぬんだ……オレたち……っ」
「さ、最後にこんなに可愛いゴブリンを見られて……運が良かったのかもな……」
みんな諦めきっている……。
そんなに強いんだな。
「迂回するのか?」
「……下手に動くと気づかれる、かもしれない。ここで息をひそめ、こっちに来ないことを祈るしか、ない……っ」
「それなら、俺たちで戦ってみる」
ガチャのポイントにもなるだろうしな。
「だ、大丈夫なのか!?」
「ダメそうなら、俺たちが戦っている隙に迂回して逃げればいい。ゴブリア、ルフナ、行くぞ」
「ゴブ!」
「ガルル!」
二体に声をかけ、俺はマウンテンコングへと走り出す。
先制攻撃だ。マウンテンコングがぴくりとこちらを見て反応する。
「ウゴゥ!」
雄たけびとともにマウンテンコングが腕を振りぬいてきたが、それをかわす。
動きは見切れるな。あとは、剣が通るかどうかだ。
マウンテンコングの一撃に俺は、
「ゴブリア、背後に召喚する!」
「ゴブ!」
俺は伝えてすぐに、マウンテンコングの背後に召喚魔法を使用する。
魔法陣が出現し、マウンテンコングの背後に現れたゴブリアが、思いきり棍棒を叩きつけた。
その一撃によって、マウンテンコングがよろめいた。
「ウゴ!?」
ゴブリアでも十分ダメージを与えられるな。
よろめいたその首へと、ルフナが食らいつく。
血が噴き出し、膝をついたマウンテンコングの首へと、俺は剣を振り下ろした。
問題なく、倒せたな。
ポイントは……300か。
さっきのジャイアントシザースも同じく300ポイントだ。
これまで通り、25体倒せるのなら、それぞれ7500ポイントか。
こいつらを50体倒せば、三十三回ガチャが回せるってことだな。
俺たちが、ゴブリンたちのもとに戻ると、滅茶苦茶驚いていた。
「どうした?」
「ま、まさかこんなあっさり倒せるなんて思っていなかったんだ!」
「そうか?」
それは随分とみくびられていたものだ。
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