第3話
村を目指して、再び歩き始める。
「……クレスト。おまえは召喚士、なのだろう?」
「……別に召喚士に拘っているわけじゃないぞ? 例えば、鍛冶とかだってできるし、薬師とかも可能なんだ」
「そ、そんなにたくさんのスキルを持っているのか!? 凄いな人間というのは!」
「まあ……俺がたまたま持っているだけだ」
こうして褒められるのは、『ガチャ』スキルのおかげだな。
目を輝かせているゴブリンに苦笑を返しながら後ろのゴブリンを見る。
「……あ、あのマウンテンコング相手に一撃でよろめかせるなんて、大層、な力持ちなのですね!」
「美しいのに、力もあるなんて……凄いですねっ!」
ゴブリアを囲むようにして、ゴブリンたちが褒めちぎっている。
ゴブリアは慣れない様子でいたが、それでも誇らしげだ。
……一方、ルフナに対しては皆種族が違うからか、あまり声をかけていない。
そのためか、寂しそうにルフナが俺のほうにやってきたので、軽く頭を撫でる。
俺の隣にいた傷持ちゴブリンが小さく息を吐いた。
「すまない。あれほど綺麗なゴブリンはそうはいない。みんなが迷惑をかけないようには見張っておく」
「ああ、ありがとな。やっぱり、ゴブリアはゴブリンから見て可愛いのか?」
人間の俺にはよー分からん。
そう答えると、傷持ちゴブリンはこくりと頷いた。
「ああ。我らゴブリンクイーンに負けずとも劣らず、といった様子だ。いや、どちらかといえば、ゴブリアのほうが……ゴブリン的には美しいのかもしれない」
……そこまで、なんだな。
これが人間の評価だったら、俺も多少は期待するものがあったが、ゴブリンのものだからな。
「……それにしても、名前付きを二人も用意しているなんて。クレストは召喚士としてもかなり優れているんだな」
「……そういうものなのか?」
「ああそうだ。もちろん、才能ある者なら、たくさん用意できるだろうが、多くて一体が限界ということもある、とオレは聞いたことがあるぞ」
「なるほどなぁ」
やがて、村の入り口が見えてきた。
……村、というかなんというか。
木で造ったと思われる門はあったが、あまりにもボロボロだ。
柵などで周囲を覆ってはいるが、いや人間が体当たりしても壊れそうなほどにオンボロだ。
そんな柵越しに村が見えたが、風が吹けば壊れそうな家々が立ち並んでいた。
「建築系スキルを持った者はいないのか?」
「……あ、ああ。恥ずかしいことに、これを作り上げるのが限界だったのだ」
「……そうか」
村にいたゴブリンたちが、それぞれ武器を持って出てきた。
……人間を連れてきたからか、みんな警戒している様子だ。
三十名ほど、と言っていたか。確かに、家から出てきた数は、それくらいだった。
「とりあえず、全員に紹介する」
ゴブリンはそういって一歩前に出る。
「みんな! ここにいる人間は、オレたちが危険なところを助けてくれたんだ! だから、そのお礼として数日程度、この村に泊めようと思う! いいな!」
ゴブリンたちは顔を見合わせたあと、こくりと頷いた。
俺をここまで案内してくれたゴブリンが振り返る。
「家は……あそこの家があいているからつかってくれていいぞ?」
「いや、家は自分で用意できるから場所だけ貸してくれないか?」
さすがにあのボロ家では寝ているときに不安だ。
「そ、そうなのか? といっても、造るのに数日はかかるんじゃないか?」
「いや、そんなにはかからない。まあ、それは後で見せるとして……そういえば、ゴブリンクイーンは怪我をしているんだったな?」
「あ、ああ」
「それなら、このポーションを使ってみるか? おまえたちに渡したポーションと同じものだ」
俺はポーションをもう一つポーチから取り出して渡す。
それを手に取ったゴブリンが目を見開いた。
「い、いいのか!?」
「ああ。……もしもそれが効いたらおしえてくれ。おれもゴブリンクイーンに色々と聞いてみたいと思っていたんだ」
「い、いや……それなら今からいっしょにきてくれ! クレスト、ポーションを作れるってことでいいんだよな!?」
「ああ。さっきも言った通り、薬師のスキルを持っているからな」
「そ、それなら、実際にゴブリンクイーンの状態を見てくれたほうがいい! 頼む、オレたちの女王を救ってくれ……っ!」
彼がそういうと、他のゴブリンたちも期待するようにこちらを見てくる。
……いや、薬は作れるが……さすがに医学知識は持ってないからな。
それでも、ここまで期待されてしまうと断るのもな……。
「……分かったよ。ただ、診ても分からないかもしれないからな?」
「わ、分かっている! こっちだ、来てくれ!」
そういってゴブリンが俺の手を引いてくる。
俺はゴブリンとともに移動し……一番奥の家についた。
他の家と比べると、一回り大きく、造りも丁寧だった。
さすがにゴブリンの女王が眠る家なだけあるな。
共に家へと入る。一人ゴブリンがいて、こちらに気づくと会釈する。
俺を見てさすがに驚いたようで、そこで簡単に説明をする。
ただ……俺はそんなことよりも葉の上で眠っている美少女に目を奪われた。
美しい黒色の髪。俺がこれまでに見てきた女性にも負けないほどに可愛らしい、少し小柄な少女がそこで眠っていた。
「……人間、じゃないのか?」
「人間じゃないぞ! この角を見よ!」
ゴブリンが不服といった様子で、ぴっと少女の額のあたりを指さす。
髪の生え際あたりに、二つの角が生えていた。むしろ、それが少女の可愛らしさを際立たせていた。
俺はすぐに鑑定を使う。
確かに、彼女の種族はゴブリンクイーンだった。
……いやいや、マジかよ。ゴブリアと見比べてみても、明らかに容姿が違うんだが……。
なんでこれで、ゴブリアとゴブリンクイーンの容姿がほぼ互角! みたいな評価なんだろうか?
鑑定を使って気になったのは……ゴブリンクイーンが猛毒状態ということだった。
ゴブリンクイーンの表情はどこか険しい。今は眠っているのだが、頬は赤い。
苦しそうに胸が上下している。
……毒よりも酷い状況なんだな。
「ゴブリン。ゴブリンクイーンは猛毒状態だ。……最近、猛毒を使う相手と戦ったことは?」
「……あ、あるぞ! 確か、ここから北に行ったところで、ポイズンスネークというやつと戦った!」
「それが原因かもな。その時に攻撃を食らったのか?」
「ああ、噛まれたんだ!」
「……なるほどな。それなら、ポイズンスネークを倒してみないと毒は治療できないかもしれない」
俺の言葉に、ゴブリンが絶望した様子で目を見開いた。
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