第二章

第1話


 あれから、数日が過ぎた。

 ひとまずは、周囲で魔物を狩りながらのんびりと生活をしていた。

 ……正直言って、今のような生活を続けてもいいんだがな。


 とはいえ、五月のガチャはもちろん五月しか回せない。

 下界での生活を考えるなら、召喚士系スキルは高レベルにしておきたかった。

 なので、新しい場所を探して移動することにした。


 目指すはさらに北だ。

 今の拠点にはもう戻ってこないかもしれない。

 種など、必要なものだけを持ち、俺は森を北へと進んでいく。


「ルフナ、どうだ?」

「ガウ!」


 ……周囲に魔物はいないようだ。

 ルフナの鼻は随分と探知能力が高い。俺もスキルで探知系スキルは持っているが、役割分担できるならこのほうが楽だ。

 

 しばらく魔物をかわしながら移動していく。

 もう、この辺りの魔物は倒したからな。ポイントの回収は終わっているので、無理に戦う必要もない。

 そんな風に考えていたときだった。ルフナが足を止めた。


「……ガルル」


 魔物が近くにいるようだ。

 ルフナが唸ったのに合わせ、俺は感知術を発動する。

 ……周囲に魔物は――いた。

 

 ん? なんだこの魔力は。

 いつもと少し違う感覚だった。発見はしたのだが、魔物ではなかった。

 ……いや、魔物なのか? ……よく分からない。一度、見てみる必要があった。


「ゴブリア、ルフナは周囲の警戒を。ゴブリア、荷物を頼む」

「ゴブ!」


 俺は背負っていたリュックサックをゴブリアに渡し、それから音を消して移動した。

 ……そして、感知術の反応があった方へと走り、木の裏に身を顰め様子をうかがう。

 ……と、いたいた。


 二種類の魔物がいた。

 一体は、大きなカニだ。もう一体はゴブリン、だ。


「か、囲め! こ、こら逃げるな!」

「わ、わかっているけど……ゴブー!」


 ……会話しているのは、ゴブリンたちだ。

 人間の言葉を使っているのにも驚いたが、ゴブリンたちは連携して狩りをしている様子だった。


 ……感知術を改めて発動する。

 俺の感知術を地図に書き起こすと、魔物は赤く表示される。

 俺や、俺の管理下にいる魔物は青色の点で表示されるのだ。


 ……だが、あのゴブリンたちはそのどちらでもない緑色だった。

 ……現時点では、敵ではない、ということなのだろうか?


 よくわからないな。

 そう思っていると、カニ――ジャイアントシザースがその大きなハサミを振り下ろし、ゴブリンの一体を吹き飛ばした。

 

 ……かなり、ジャイアントシザースは強いようだ。

 倒れたゴブリンを見て、俺は助けることに決めた。


 ……せっかく、知性ある魔物なんだしな。

 

「ゴブリン、俺の言葉が分かるか?」


 俺がすっと現れ、声をかける。と、ゴブリンたちが驚いたようにこちらを見た。


「に、人間!? ど、どうしてここに!?」


 ……感知術を使うと、六体いたゴブリンのうち、一体を除いて俺を睨みつけてきた。

 ……その瞬間、地図に表示されていた緑色が赤に変わる。


 ……なるほどな。

 まだ、緑色だったゴブリンに視線を向け、ポーションを投げ渡した。


「魔物に効くかどうかは分からないが、ポーションだ。ゴブリンの傷を治してやれ」

「……」

「に、人間の薬なんて毒が入っているに決まっている!」


 ゴブリンたちが何か言っているが、俺は無視してジャイアントシザースへと跳びかかる。

 ハサミが振りぬかれる。

 それをかわしながら、剣を振る。俺の羊牙剣に付与された破壊術の効果か、ジャイアントシザースのハサミが砕けた。


「ギャン!?」


 思っていた以上にスキルの効果が強いようだ。

 俺は剣を引き戻し、ジャイアントシザースの手首へと剣を振りぬく。一瞬の抵抗があったが、剣はやすやすとそのハサミを切り落とした。


 よろめいたジャイアントシザースへと、俺は一気に肉薄し剣を振り下ろした。


「ぎゃ、ギャン……っ」


 ジャイアントシザースはその場で崩れ落ちた。……目から光が消えたのを確認して、俺は剣を鞘にしまった。

 ……カニ、か。今日はカニ鍋にでもしようか?

 この辺りには色々な作物もあるようだし、カニと一緒に茹でたらさぞおいしいことだろう。


 なんて夕食に想いを馳せていると、ゴブリンたちがこちらへとやってきた。

 六体のゴブリンのうち、一体が俺をじっと見ていた。

 ……他のゴブリンよりも顔つきがどこか凛々しい。ちらと見た感じ、オス3、メス3といったところか。


「助けてくれて、ありがとう……」


 すっと、俺がポーションを渡したゴブリンが頭を下げて来た。

 ……彼がこのパーティーのリーダーと言ったところか。

 片目の部分に縦に走った傷を持ったゴブリンだ。


「まあ、別に気にするな」

「……いや、感謝させてくれ。オレたちのリーダーが怪我をしてしまって、普段慣れていない者たちで狩りをした結果が、これなんだ」

「……そう、か。まあ、気をつけてな」

「そ、そこでなんだが!」


 ゴブリンがすっと俺のほうに近づき、頭を下げてきた。


「た、頼む! オレたちに狩りを教えてほしい!」

「……」


 じっと俺はゴブリンたちを見る。

 男に合わせ、ゴブリンたちもすっと頭をさげてきた。

 ……こう素直にたのまれると、ことわりにくいな。


「俺は今、生活の拠点を探しているんだ。……この辺りで生活できる場所はあるか?」

「オレたちの村がある。三十名ほどのゴブリンがいて、家とかもあるんだ」

「……そう、か。それなら、そこで数日過ごさせてくれないか? それなら、狩りの仕方も教える」

「ほ、本当か!?」


 目を輝かせるゴブリン。俺が頷くと、彼らは嬉しそうに小躍りした。

 ……子どもみたいなやつらだな。

 俺はそんなことを思いながら、苦笑していた。

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