第34話 新しい風②

「演劇部の先生が担任で。用事があるみたいなんですけど、転校してきたばかりで、まだ部室の場所まで覚えきれていなくって。案内してもらえてよかったです」


 彼女は私の上履きに目をやる。


「あの、二年生、ですよね」


 彼女はちょこんと首をかしげて、肩に触れるほどの長さの髪を揺らす。


 はやる胸を押さえながら、かろうじて声を出す。


「二年生、です」

「あ、私もなんです。何組ですか?」

「えっと、実は私」


 放送部室に近づいていき、美香ちゃんたちが練習する声が聞こえる。

 遠くから美香ちゃんが出てきた。美香ちゃんは私に気が付き、手を振る。

 私は少し落ち着いて、手を振り返す。


 美香ちゃんは隣にいる子に気が付いたみたい。

「あれ、瑠香っち、その子は? 知り合い?」


 私より先に彼女が否定する。


「あ、違うんです。私が今演劇部室を案内してもらってて」


「そうなんだ、って、もしかしてあなた、転校してきた子じゃない? めっちゃ美少女って噂には聞いてたけど、ほんとに、きれい……。えっと、上村かみむらさん、だっけ」


「あ、はい。名乗るのが先でしたよね、ごめんなさい」


 私はぎこちなく首を振る。


「そんなこと……、えっと、私は茜谷瑠香、です」

「茜谷……、きれいな苗字。えっと、瑠香ちゃんって呼んでもいいかな」


 うなずく。


「私は田中美香」


 彼女は両手を合わせて、瑠香ちゃんに、美香ちゃん、とつぶやく。


「それで、上村かみむらさんは何て呼べばいいかな」


 彼女は合わせていた両手を離して後ろで組む。




「私のことは、葉菜はなって呼んでください!」




 彼女――葉菜ちゃんは大輪の花のように微笑んだ。




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