第33話 新しい風①

「瑠香っち、ちょっと休憩にしよっか」


「あ……うん、私、お手洗いに行ってくるね」


 部室のドアを閉める音が静かな廊下にやけに大きく響いた。


 いけない、ぼーっとしてしまった。


 頑張らないといけないのに。そんな事とっくにわかっているのに。


 ぐっとこぶしを握り締める。


 私が頑張らないと。


 トイレは確か、廊下の突きあたり、階段の近くだったはずだ。


 階段を下りる音が聞こえる。その音に駆け下りる音が混じる。


上村かみむらさん!」


 その音が、どちらも止んだ。


「先生が用事があるって。まだ帰っていなくてよかった」


「ありがと、職員室行けばいいかな」


「いや、部室にいると思う」


「おっけ、じゃまた明日ね」


 足音が近づいてきた。


 私は思わず階段を上る顔を見る。目が合った。


 彼女は、良かった、という風にほほ笑む。


「あの、演劇部の部室、教えてもらってもいいですか?」


 きれいな子だった。


「こっちです」


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