第32話 加藤の過去②
緑川くんに伊月とりんから嫌われていたのに、放送部で全国に行ったことを知った途端に態度を変えられたこと、前の学校の放送部が廃部の危機で何としても全国に行かせてあげたいこと、そのために全国であたるかもしれない伊月とりんの弱みを知るために加藤に協力を頼んだことを説明した。
緑川くんは時々うなずいて、最後まで話を聞いてくれた。
「なるほどね。状況は理解した。でも、何で加藤と手を組んだ」
「手を組むって……そんなんじゃないよ。ただ伊月とりんについで少しでも情報を集めたかっただけで」
「かわりに何をした」
緑川くんの声がかたい。
分かってる。分かってるよ。緑川くんがただ心配してくれてるだけだってこと。
心配してるからこその言葉なのはわかる。でも、その声のトーンに私は責められている気持ちになる。
「またキスとかされたんじゃないよね」
彼の声に不安の色が混じる。
私はそこでやっと、心を落ち着かせることができた。
「されてない」
大丈夫だよ、と緑川さんに伝えたくて、彼の目をじっと見つめる。
ちゃんと、説明するよ。
こんなに心配してくれているんだもん。
かくしごとはしたくないよ。
「加藤と約束をしたんだ。私は加藤から放送部についての情報をもらう。
加藤は私が前にいた学校にいる葉菜って子の情報をもらう。そういう交換条件」
緑川くんの目が大きく見開かれる。
口もかすかに開き、呼吸が荒くなる。
目の焦点が合わなくなった。
「み、緑川くん? 大丈夫?」
「だ、いじょうぶ」
緑川くんはかろうじてといった具合で声を出す。
「……ごめん、茜谷さん。僕、用事ができた。今から行ってくる。それと」
緑川くんは私の目を見た。
「葉菜についての情報は絶対に渡すな」
緑川くんの顔は見たことがないほど険しいものだった。
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