第31話 加藤の過去①

「茜谷さん? 何かあったの?」


 お昼休み。いつものように一人でご飯を食べていた。


「緑川くん……、ううん、何でもない」


 私は顔を上げて心配されないように笑顔を作る。

 緑川くんにはいつも助けてもらってばかりだし、変に心配かけたくない。


「何でもないってことはないでしょ。明らかにいつもと様子が違うし。……もしかしてまた加藤になにかされ……」


 ぶるぶると首を横に振り、緑川くんの言葉にかぶせるようにして声を出す。


「違う、加藤とは関係ないよ。むしろ加藤には協力してもらっているし」


 緑川くんは眉間にしわを寄せて「協力……?」とつぶやく。

 目をすっと細めて私を鋭い瞳で射貫く。


 私は反射的に口をふさいだ。


 緑川くんに隠すことじゃないけど、何となく言っちゃいけなかったような気がして。


「協力って、なに」


「あ、えっと……」


 何も言おうとしない私をみて、緑川くんは小さく息を吐く。


「何か危ないこととかしてないよね」


「そんなんじゃないけど……」


「僕はただ、茜谷さんを心配してるだけだよ。言いたくないんだったらそれでいい。けど、僕は茜谷さんの味方だから。何かあったら相談してよ。それじゃ」


「まって」


 私に背を向けた緑川くんに声をかける。

 

「話、聞いてくれる?」


 自分の言葉に驚いた。さっき、迷惑かけたくないって思ったばかりなのに。

 でも、緑川くんはうれしそうに笑ってくれた。

 その笑顔が、まぶしくて、私は目をそらす。


「まだ時間あるし、ちょっと外でよ」








 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る