第22話 加藤と緑川

 ぱっと加藤が離れて立ち上がる。


 その顔はとても、険しい。


「緑川っ、どうしてお前はそうやっていつもいつも邪魔するんだよっ」


 加藤は握りしめていた砂を緑川くんに向かって投げる。


 私は目を見開く。


 さっきまでの優しい目をした加藤は、どこにいったの。


 じゃああれは、やっぱり、演技だったんだ……!


 緑川くんは涼しげな顔で私に近づく。


 しゃがみこんで顔を覗くと申し訳なさそうに眉を下げた。


「ごめん、守ってあげられなくて」


「そんな……!」


 加藤は緑川くんの肩を激しく揺さぶる。


「なあ! 緑川! 聞いてんのかよ!」


 緑川くんは静かに手を振り払うとゆっくり顔を加藤に向ける。


「ああ、聞いてるよ」


「お前は俺の邪魔をして何が楽しいんだ?」


「逆にこっちがこんなことやって何が楽しいのか聞きたいよ」


 緑川くんは落ち着いてるけど、熱い炎が出てるようだ。


「これは俺が唯一楽しいと感じてることなんだよ! それを奪わないでくれよ! 俺とお前は親友だろ?」


「ああ、昔はそうだったな。けど」


 一呼吸おいて。


「お前のやってることは犯罪だ。俺にとってお前はただの」


 公園が静まり返った、ように感じた。


 その時だけは鳥の鳴き声もそよ風に揺れる葉の音も、車のエンジン音も、なにも聞こえなかった気がする。


 私たちだけの時間だった。


「人殺しだ」



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