第21話 加藤の本性

 放課後。


 公園につくと加藤に連れられてブランコに乗る。


 ゆっくり漕ぎながら加藤は遠く夕日を見つめている。


 認めたくないけれど、加藤の横顔はとてもきれいだ。


 心と外見は全然違う。


 まるでギリシャの彫刻みたいな。


 公園に来てからずっと沈黙が続いている。


 その沈黙に耐えかねた私はついに声を上げた。


「加藤? 伊月の秘密を教えてくれるって話だったでしょ」


 加藤は私のほうを見ると残念そうに笑う。


「俺の横顔に見とれてもらって正式に付き合う予定だったんだけど」


「なっ」


 てことは私、加藤の作戦に乗ってしまったってこと? 危なかった……。


 よっと、加藤はブランコから華麗に飛び降りた。


 私に近づいてくる。反射的に顔をそむけると耳に吐息がかかる。


「瑠香は本当にかわいいよ」


「な、何を言って……、早く離れてよ!」


 力任せに加藤を押しのけると、想像してた以上に簡単に吹っ飛んだ。


「え? 嘘でしょ!?」


 その時間はとてもゆっくり進んでいって。


 何もかもスローモーションに見えた。


 ガンっ、と鈍い音がして加藤が柵にぶつかった。


「え、え? か、加藤!」


 慌てて駆け寄ると加藤はゆっくり目を開く。


「大丈夫だよこれくらい。頭打ったわけでもないし」


 加藤は私の頭をやさしくなでる。


「瑠香は本当にやさしいね」


「ど、どうしちゃったの」


 今までの人とはまるで別人……。


 全然嫌な感じがしなくて。今までだったら鳥肌がぶわっとたっていたのに。


 加藤は頭を私の肩にのっけて優しく抱きしめた。


「本当はこんなつもりじゃなかったんだ。おれ、好きな人の前だと、上手く話せなくて強引な手を使っちゃう。瑠香にひどいことしてるのわかってた。だけど、止められなくて」


 突然の告白に私は戸惑う。


 私の意志とは無関係にどくん、どくんと心臓が波打つ。


「おれ、前も似たようなことしちゃって、それで緑川にあんなに嫌われてるんだ。……ねぇ、瑠香。おれ、本当に瑠香のこと好きだよ。大好き」


 こんなことって、ありなの。


 今までいじめられてて、無理やりキスもされて。


 そんな人が、今、私に甘えている。


 これも演技なのかなって思ったけれど。


 彼の手は震えていて。


 どうしてもこれが本心だと思ってしまう。


「加藤……」


 加藤はゆっくり離れていって私の目を見つめる。


「キス、してもいい?」


……でも、これが嘘じゃなかったとしても、キスされるのを簡単に許せるわけなくて、それでも口が動かなくて。


 加藤は私の唇をなぞるとゆっくり顔を近づけていった。


「だめだ、茜谷さんっ」


 緑川くんが声を上げたのと唇がふれたのは同時だった。

 



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