第23話 緑川の過去

「茜谷さん、行くよ」


「え?」


 私は手を引かれた。


 緑川くんはぐんぐん進んでいく。


 私は追いつくのに精いっぱいだった。


 後ろから加藤が追ってくるかと思ったけど、そんなことはなくて私はただただ走っていく。


 アーケードまでつくと緑川くんは歩調を緩めた。


 私は緑川くんの隣で歩く。


 街灯が彼の顔に影を作りその表情がよく見えない。


 全く止まることもなく、話すこともなく。


「緑川くん、待ってよ! お願い、止まって」


 こつん、と靴が地面にあたる音が響き緑川くんは顔を見せた。


 私ははっと息をのんだ。


 美しい一筋の涙が頬を伝っていた。


「みどりかわ、くん……」


 人殺しってどういうことなのって、口から出かかって、だけどそれを止めた。


「ごめん」


 緑川くんは涙を袖で拭くと息を吐いた。


 その白い息は世界で一番儚かった。


「茜谷さんからなんで目を離しちゃったんだろうな……、もうあれから何年もたって、俺は……、」


 緑川くんはこぶしを強く握った。その視線が私に突き刺さった。



「茜谷さん。加藤は人殺しだ」



「人殺しって、どういうこと、なの」


「ごめん」


 その返答は私の質問の答えにはなっていなかったけれど答えることを拒否していることはわかった。


「加藤から何と言われようとついて行ってはいけない。絶対にだ。……茜谷さん。送ってくよ。家、どっち?」


 家に帰って私は泣いた。


 どうしてかわからなかった。


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