(12)~クレアとカイヤから愛し子へ~

 ささやかながら温かい。

 そんな幸せな結婚生活を送っていた二人に転機が訪れた。


 夏のある日だった。

 クレアとカイヤの子供が産まれたんだ。

 目元と表情はカイヤに口元と髪質はクレアに似た、可愛らしい女の子だった。




「この子の名前、どうしようか?」

「ねえ、カイヤ」


 スヤスヤと眠る自分達の子を嬉しそうに腕に抱くカイヤに、ベッドの上で体を起こしたクレアが小さく呼びかけた。


「ん?」

「私が付けてあげていい?…その、名前」


 珍しく自分からそう提案した彼女は少し恥ずかしそうに俯く。

 カイヤは一瞬目を瞬かせたが、すぐに嬉しそうに笑って「もちろん!」と返し、そのままベッドサイドに座って彼女の方からその子の顔が見えるようにした。


 クレアはそっと優しく、その柔らかい頬を撫でた。

 すると、ぼんやりとした光を纏い、その子の髪がと蒼へと変じた。

 きっと閉じられている瞼の下のくりくりとした瞳も同じ色になっているはずだ。





「『名は体を表す』ってよく言うでしょ?それは魔法も同じなの」


 クレアは以前なら自身でも想像もできなかったような優しく穏やかな表情を浮かべ、色の変わった幼く柔らかい髪を一房すくいあげた。


「この子の魔法は『浄化』。私とは違う」

「…」


 クレアが呟いた言葉に、一瞬カイヤの表情に不安げな影がよぎった。

 しかし、それをすぐに感じ取った彼女が「大丈夫」と微笑む。


「私はそれが嬉しいの。だってこの子は『呪いの魔女』の私とは確実に違う人生を歩めるのだもの。それって素敵な事だと思うわ」




 まぁ、本音を言うならこの子『浄化』以外が良かったけど、とクレアは小さく呟いた。





 そう、二人の子に宿った一番強い魔法は『浄化』の魔法。

 それはほとんどが『呪い』を使う魔女や魔法使いにとっては対となる魔法。

 この子は生まれながらにして『呪い』とは確実に子だったんだ。



 ーーーけれど、クレアはそれを悲観していなかった。

 むしろ、この子はカイヤと二人で守ればいい。

 どこかでそう楽観視さえしていたんだ。

 この時は何も問題は無かったから。ーーー




「だからね?」


 クレアは穏やかに眠る子からカイヤの方に視線を移し、ちょっと幼い少女に還った表情でいたずらっぽく笑って、


「この子の名前は『浄化』の意を持つ石の名前。澄んで晴れ渡るあの空の石、天青石セレスタイト。それがこの子の名前よ」


「『セレスタイト』…うん、いい名前だね。…でもなんでわざわざ石なんだい?」

「…それは」

「君のことだ。理由、あるんだろ?」


 何故か急に口籠るクレアにカイヤが追って問いかけると、彼女は観音したようにこう続けた。


「…カイヤ、あなた自分の名前の由来って知ってる?」

「……いや。全く聞かなかったな」

「そうだろうと思った。あなたって本当、人にはこれでもかってくらいお節句なのに、自分のことはてんでダメなんだもの」


 クレアがジト目でそう告げると、カイヤは「あはは」と誤魔化すように笑って、目を腕の中のセレスタイトに逸らす。

 そんないつもの様子にクレアは呆れたようなため息を一つ付いて、「ま、それもいい所だけど」と呟いてから言葉を続けた。


藍晶石カイヤナイト、この石はあなたの瞳とまったく同じ深い青の石と同じ名前。そして、この石にはあなたにぴったりな石言葉があるの。」

「俺に?」

「ええ。藍晶石カイヤナイトの石言葉は『固定概念を取り払う』、『人生において進むべき道を示す』。ホントぴったりね」

「へー…知らなかったな。うん、でも確かに俺にはぴったりだ」


 しばらくうなずき、カイヤはニッと笑った。



「あなたに『カイヤナイト』の名前がぴったりと合うように、この子にも『セレスタイト』の名前に合う子になってほしいから。それが理由」

「なるほど。指針であり、『お守り』なわけだこの名前が」

「ええ、私達からの一生のお守り」


「うん、ますます気に入った。今日からこの子はセレス、セレスタイトだ」

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