第3話 家具屋のふたり

 **これは現在ではなく、昨年のお話です。**


 僕らは家具を見に行くのが大好きだ。あと雑貨も好きだ。の割には家にモノをあまり置きたがらない僕と、動物の可愛いモノを愛でるのが大好きなあーちゃん。


 IKEAとニトリに意味もなく行きたがるあーちゃんを引き止めるのは一苦労する。


「家具屋さんに行きたい」

「……ほお」

「ちゃんと聞いて〜」

「聞いてる聞いてる」

「またいい加減な返事する〜」

「車は出さない。自転車でなら行ってもいいよ。以上……」

「ニトリはともかく。IKEAだったら片道どれだけあると思ってるの! しかも途中は坂道だらけなのよ!」

「うむ。健康第一」

「健康って…… 翌日には筋肉痛に苦しむだけよ。もう〜 IKEAなんて無理だから。ゆっくりくつろげるカフェのケーキ食べ放題に挑戦しに行くから」

「それより自転車で頑張ったご褒美に乾いた喉に安くて冷たくて美味しいソフトクリームはどうだ?」

「このままの気持ちで行ったら三つくらい食べそう」

「食い過ぎだ。却下」

「あーん」

 というやり取りを経て、いざ自転車でIKEAへ。


 片道7キロ。順調に進んでいると思うと、後方で自転車に跨りぶつくさと文句が聞こえてくる。「肥えた肥えた」と、あーちゃんが言うなら、どうせ行くなら楽しく運動もできたらいいね! という僕の心意気を感じて欲しかった。が、どうやら不機嫌マックスの御様子。自転車は脚を鍛えるのにいいぞ! 腿にも効く! いいことだらけの自転車。いいぞいいぞバイシクル!


 なんだかんだでIKEAに到着。文句をたくさん言いながらも駐輪場から店の入口までの徒歩であーちゃんは笑みをこぼす。僕はといえば、たくさん買わないのに大きなカートにワクワクする。トイザらスにもこの手の大きなカートがあって意味もなく使う。大型ショッピングモールなどにも置いてほしいと思う今日この頃なのである。ただ単に、手に荷物を持ちたくないだけとも言う。


 おっと、話が脱線だ。いつもの癖だ。あぶないあぶない。


 家具屋は夢がそこらかしこに散らばっていて、たとえそんな素敵に出来なくても、楽しいのである。


 キッチン。バス。リビング。

 あれもこれもと見ていると、楽しくて時間を忘れる。なんなら日頃の嫌なことも多少は吹っ飛んでいくからね。途中休憩のカフェもIKEAの魅力なのである。以前のザリガニフェアは度肝を抜かれたが。まあ、それも今回はないのでお茶を軽く飲んで、次は雑貨があるコーナーに行く。ここは正直に言うと、魅惑のゾーンなのである。


 フラワーベースに観葉植物。グラスにカトラリー。照明器具に小物入れ。あれこれと手に取ってはカートに入れていく。見ているだけでもワクワクして、僕は目を輝かせる。


「子供みたいね」と、あーちゃんは僕を見て肩の力を抜くように笑う。

 レジに並び料金を見て軽く眩暈がした。ごちゃごちゃ買うと結構な金額になった。


 あと帰りの自転車に積める許容範囲を超えて、ふたりで爆笑する。


「調子に乗ったね? 亮ちゃん」


「ごめん…… やっちまったね」


 駐輪場でカゴに乗らない荷物に大笑いして、配送する為にはサービスカウンターにふたりで荷物を運んだ。


 それでいいのか?

 これでいいのか?

 

 それでいいのだ。

 これでいいのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る