第9話 Case3.大事件From浮気調査④

マイケル・アレックスは財務省高官としてフィリップ・トラウト大統領お気に入りの官僚として出世を遂げた。財務官僚として、多くの税が集まる財務省を舞台として、選挙資金横領を指示されたマイケルは、狡猾に二期目に入る大統領を隠れ蓑として、金を流し続けた。その甲斐あって、絶対不利とされた前回の予備選挙を、資金源を頼りに優位に進め、結果として党の代表に躍り出た。元が与党であった為、代表となれば支持率の低い現職大統領にも関わらず、大した汚点もなく、予想通りに野党代表の決定力もなかった事から、トラウトは見事当選を果し、再び大統領の椅子を手に入れたのであった。約束通りにマイケルも、ただの平官僚から、異例のステップアップを果し、現在の局長職を物にしたのだ。

しかし部下であったはずのマイケルが、突然に昇進を果した事、汚点はないものの党内での評判が良くないトラウトが党代表に選ばれた事に、納得のいかなかったスミス・ノーマンは、独自に調べ上げ、不穏な金の流れを掴んだ。それを省内で唯一信頼の置ける部下であったリンダに、スミスは話した。それを聞いたリンダは、スミスの予想通りに、協力を自ら願い出たのだ。そして真相まで後一歩のところで情報が漏れたのか、スミスは亡き者にされたのだ。


「良いかい?俺たちがやらなければならないのは、悪を断罪する事ではないんだ。正義を貫く事なんだ。何が良くて、何が悪いのかを見極めて、その上で正しい事をしようとしたリンダを、スミスの遺族を守る事なんだ」シュウの演説を、ヘプター探偵社一同は黙って聞いていた。

「シュウよ。お前さんの言う事は分かった。それは我らヘプター探偵社の方針とも合致するだろうさ。で?俺たちは何をすれば良いってんだい?」グレゴリーは大きな肩を揺らして問いかけてきた。

「うん。これを言ってしまえば、皆んなに混乱を起こしてしまうかも知れないが、トラウト大統領の護衛を最優先課題として取り組んで欲しい」シュウは一同を見回しながら、各人の反応を確認した。その反応は、一様に目を丸くして、驚きと言うよりもコメディアンのおかしな芸を見せられたようなものであった。

「ヘィ、ユーの言う事はおかしい事だらけじゃないか?スミスの遺族やリンダ自身を守るって言って置きながら、その凶的を守るだって?そんな案件なら、ボクは降ろさせてもらうよ」二枚目気取りのケリーが、自慢の青く染めた髪を掻き上げた。

「待ちなさい!ケリー。約束を忘れた?シュウの言う事を表面上だけで判断しないで、最後まで聞いて上げて」メリーはケリーを睨みつけるように制した。それを見たケリーは、肩をすぼめて手の平を前に突き出してシュウに続けるような仕草をした。

「本当にすまない。これは俺の予知能力によるものなんだ。トラウト大統領は殺される。それだけが事実なんだ。情けない話しなんだけど、誰が何の為に、どうやって殺害するかまでが見えて来ないんだ。ただ確実にトラウトが殺害される事で、この国は混乱におとしめられる。それだけが俺の脳裏に浮かんだ事実なんだ」シュウのアンニュイとも思える表情と、今まで見てきたシュウの予知能力とが、一同に現実リアルを押し付けてきた。

「True Jastise?」メリーはシュウを見た後、ヘプター探偵社の面々を見渡した。

「分からない。ただ俺が見てきた予知映像は、間違いなく起こる現実だ。それを食い止める為にも、皆んなには力を貸して欲しい」シュウの言葉に、今まで黙って聞いていた、意外な男がゆっくりと口を開いた。

「マイケル・アレックス…彼が出てきたって言う事は "イノセント・ワールド" が動き出した…そう言う事ですかね?」ニコラスはメリーに心配そうに目配せして言った。イノセント・ワールドとはメリーの祖父であるジョゼフ・アルフレッド卿の元弟子であるウォーレン・フリードマンが作った組織であり、政府に迎合したアルフレッド卿のやり方に反発したフリードマンは、独自のやり方でサイキックたちが能力に応じた待遇を求めるべく作り上げた集団であった。アルフレッド卿の想いとはほど遠く、フリードマンに共鳴するサイキックたちは多く、フリードマンは理想郷イノセントワールドを秘密裏に作り上げてしまった。

「それで?俺たちはそれにどう対応するってんだい?」シュウの問いかけに、メリーは睨みつけるように返した。

「言ったはずよ、シュウ。フリードマンに対抗出来るのは私たちでは限界がある。私たちの希望でもある貴方が方針もやり方も決めて!それが私たちサイキックの未来をきっと良い方向に導いてくれる。私はそう信じてるわ。大丈夫。責任は全て私が取るわ。貴方の思うようにやりなさい」メリーの言葉を受け、シュウの瞳がキラリと光った。

「分かった。最高のマジックショーを我々で造り上げようじゃないか!」シュウの言葉は一同の心を揺さぶり、心踊らせていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

超NO ROCKな探偵社 岡上 山羊 @h1y9a7c0k1y2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る