第8話 Case3.大事件From浮気調査③
「で…?どうだったの、ブライアンのサイコメトリーは」業を煮やしたメリーは部屋を出て、グレゴリーと共に大部屋にやってきた。シュウはブライアンのサイコメトリーの結果を話した。それを聞いたメリーの顔色は見るみる内に蒼白していった。
「何ですって?大臣が絡んでいる可能性がある?」メリーの急変の意味を知るのは、この場では、古株のグレゴリー以外にいなかった。
「
「えぇ、一大事…と言うよりも、来たるべき時が来たのかも知れないわね。シュウ!アンタには悪いけど、この案件はアンタだけに託す訳にはいかなくなったわ。これはヘプター探偵社にとって…イヤッ、私たちサイキックの存在自体を試される最重要案件よ」メリーはそこまで言うと、いつものように手を合わせて念じた。すると僅か一秒足らずでシュリが、続いてケリーもニコラスも事務所に姿を現した。その時のメリーが念じた "皆んな、遂に来たわよ。私たちがこの国と戦うべき時が" の意味を推し量るすべをシュウは持っていなかった。
「皆んな、いよいよだわ。とは言ってもシュウには何が何だか分からないわよね」そこまで言うと、メリーはニコラスに目配せした。ニコラスはそれを見て、首を横に振り、中央に出た。
「良いかね、シュウ君。我々サイキックは何の為に存在しているか分かるかね?」鋭い目つきでそう話すニコラスの雰囲気は、マジシャンとして活躍していたものでも、探偵として出会ったニコラスのものでもなかった。
「な…何の為って、そんなの分からない。俺は気付けばそうだったし、少し能力をひけらかせばモンスター扱い。だから出来るだけ能力を隠すように生きてきたんだ!」シュウは自身の今までの人生に思いを馳せていた。
「そう!我々は皆同じ思いで生きてきたのだよ、シュウ君。でもね、一番それを分かっているのがメリーなんだよ」ニコラスはメリーに目配せしたが、メリーは目を伏せていた。ニコラスはメリーの一族についてゆっくりと語り始めた。
メリーの一族は、代々強い力を持ったサイキック一家だった。その事からメリーの一族は政治家を陰から支える存在を担ってきたのだった。しかしながらメリーの祖父であるニコラスの師匠とも言えるジョゼフ・アルフレッドが余りの絶大な力の持ち主であったが為、時の大統領、トーマス・トンプソンにより抹殺されてしまった。それによりアルフレッド一族は名を変え、ジョゼフ氏との関係をも消し去り、ひっそりと暮らす破目になってしまった。当時高校生だったメリーも社会の隅っこで厳しい暮らしを強いられた。ニコラスは能力を使ってマジシャンをしながら元アルフレッド一族を支える事で精一杯だった。しかしメリーが在学中に父親が亡くなった事を期に、メリーは能力を使った探偵社を興す事を思い立った。ニコラスはマジシャンを退き、恩あるジョゼフの孫娘を支える為に、何の
「ちょっと待ってくれ!俺は世の中に復讐したいだなんて、ちっとも思っちゃいないぜ。そんな目的の為なら、俺は抜けさせてもらう。生命を狙うなら狙えば良いさ。俺はそんな個人的な事には力は貸せない!」シュウはニコラスが語った話しに同意出来なかった。シュウ自身は自分の能力と上手く付き合い、世間から阻害されぬように生きてきた。復讐などと言う言葉自体が言い訳に感じてしまったのだ。
「ごめんなさい、シュウ。あなたは私たちの希望なの。あなたがマジシャンとしてデビューした時からあなたを見てきたわ。でもあなたは決して自分の能力を卑下するでもなく、ひけらかす訳でもなく、世の人々を楽しませてきたわ。ニコラスが嫉妬するほどに。それは私たちに能力の使い方をレクチャーしてくれているようだったの。お願いよ、シュウ。私たちに能力者としての正しい道を指し示して」涙ながらにシュウに訴えるメリーの言葉に同意するように、一同はシュウに熱い眼差しを送っていた。
「ふん、正しい道?そんなの能力者じゃない人間でもやってる事じゃないか。足腰が立たない老人や怪我人、身重の妊婦に車内で席を譲る。力ない女性に力を貸す。デスクワークが苦手な者に、頭が切れる者が手を貸す。どこにでもある話しさ。我々が今やらなければならないのは、正しい事をしようとして淘汰されてしまったスミスの弔い、それを手伝っていたリンダを守る事。それ以外に何があるってんだ?俺たちは力ない者を悪から守る!それだけだろ?相手が国レベルの人間だろうが関係ない。悪はとことんまで断罪する。淘汰する。それで良いだろ?メリー」メリーはシュウの演説を涙ながらに聞いていた。
「皆んな!良い?これは私たちサイキックと権力者の戦いよ。これからはシュウの指示の元に動いてもわうわ。そして現大統領、フィリップ・トラウトを失墜させる!」ヘプター探偵社は、遂にトラウト大統領の側近、マイケル・アレックスに標的を絞り、その向こう側の最高権力者、フィリップ・トラウトにまで戦いを挑もうとしていた。
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