第2話 CASE1.ストーカー調査①

 朝の8時になりシュウはベッドから飛び起きた。実はあまり眠れずに朝を迎えたのだ。

 昨夜、いきなり正体不明の人間たちに襲われ、脅迫的に仲間になるように迫られた。それも今まで、誰にも自分の能力について話した事がなかったのに、自分が能力を使ってマジックを行い、有名マジシャンとして活動している事を脅しのネタに使われたのだ。シュウはまだ彼らについて測り兼ねていた。探偵社だと言っていたが、果たしてその目的とは?単なる金儲けの為にやっているのか?他に隠された目的があるのか?善なのか悪なのか?分からない事だらけであった。

 しかしここで無視シカトをしても、昨夜の様子を考えると、おそらくは消される事になるだろう。そして戦いになったとして、戦ったグレゴリーと言う男はシュウの感覚では恐らく三割程度の力しか出していないと思われた。一方でシュウは全力を出してやっとグレゴリーの攻撃を跳ね返したのだ。そんなグレゴリーの能力、まだ見ぬそれ以外のメンバーの能力を考えれば、先ず勝ち目はないだろう。シュウは致し方なく、ヘプター探偵社へ向かった。


シュウは恐る恐る事務所のドアを開けた。

「よう、待ってたぜ、相棒」グレゴリーが大きな身体を揺らせて近付いてきた。

「あぁ、確か…グレゴリーだったっけ。相棒とはどう言った意味だい?」昨夜、命がけの戦いを繰り広げた男からの以外な呼び名に、シュウは戸惑った。

「まぁ、行く行く分かるだろう。それよりもボスのところへ急ぐんだ」グレゴリーが目線を向けた先には、別の部屋の入り口ドアが見えた。どうやらそのドアの向こうにメリー専用の部屋があるらしい。シュウはノックして部屋に入った。

「待ってたわ、シュウ。早速だけど、これが今回の依頼の資料よ。それを見ながら説明を聞いてちょうだい」シュウは10枚ほどが束になった資料を渡された。

「今回の依頼者はジョディと言う女子大生よ。彼女は最近、誰かに付きまとわれてるような気配を感じてるそうよ。そこでアンタには、彼女の言っている事の真偽しんぎと、もし言っている通りだとしたら、その人物の特定、事件の解決までお願いしたいわ」シュウは資料に目を通しながら説明を聞いていた。しかし自分の能力をそんな風に使った事はない。もちろん探偵の経験だってある訳ではない。

「そんな事、急に言われたって、僕一人でそんな事は出来るかどうか分からない」シュウは目を閉じて、首を横に振った。

「安心してちょうだい。仕事上、行動を一人でさせる事はないわ。それに今回の案件は、私たちにとってみれば、簡単な依頼なのよ。これをアンタにさせるのは、アンタの能力を見極めたい思惑おもわくがあっての事。だからそうねぇ…シュリをアンタの相棒につけるわ」メリーが目を閉じて念じると、しばらくして、シュリが入室してきた。

「彼女がシュリよ。見た目通りに女子高生。だけどバカにしないでね。彼女の得意能力は、瞬間移動よ。自分はもちろんの事、他の人間や物だって瞬時に移動させる事が出来るわ」メリーの説明の間、シュリは棒付きキャンディをくわえながら、値踏みするようにシュウを眺めた。

「ふーん、中々のイケメンじゃん。で?アンタは何が出来んの?」シュリはギャルっぽく質問してきた。

「僕の得意能力か?そうだなぁ。僕は特にこれと言うものはない。サイキックが出来そうな事は、大体出来る。まぁ未来予知は得意かも知れないが」シュウは下着が見えそうなほど短いスカートを履くシュリに、辟易とした。

「シュウ、おそらくアンタは私と同類。つまりは万能型だと思う。ただアンタは、まだ発展途上にあると思うわ。訓練次第で、今まで発動していなかった能力に目覚めたり、今現状の能力をパワーアップさせる事も可能だと思うわ」シュウは自分がサイキックなのを見抜かれた原因が分かった気がした。シュウは今まで自分の能力について特に真剣に考えては来なかった。ただやりたい事を念じると、出来る事は大体出来たし、出来ない事は出来ない、ただそれだけで深く考える事はしなかった。

「しかし能力を上げるだとか、新たな能力に目覚めるなんて、どうすれば良いんだ?」メリーの意見に興味を持ったシュウは、肝心な事を問いかけた。

「私にも具体的には分からない。とにかく依頼をこなす中で、追い込まれる時こそ、その時なんじゃないかしら」

「なるほどね。その最初のお目付役をこのシュリちゃんがすれば良いのね」シュリは咥えていた棒付きのキャンディを手に取り窓外から射し込む日光を覗き込んだ。

「依頼を遂行するにあたって注意事項を言っておくわね。依頼者にも、その周辺の人物、関係者に、絶対に私たちの能力を知られてはならない。もし知られたらその対象を消す覚悟を持っておく。良いわね?」メリーは今まで見せた事のない、シリアスな表情で話した。

「なるほど。僕らの能力は、普通の人間からしたらモンスター扱いだからね」シュウは両の手の平を上へ向けて首を横に振った。

「それだけじゃあない。まぁその内分かるわ。それからバッジは持ってきた?」メリーの言葉を受け、シュウは慌ててパンツのポケットからバッジを取り出した。

「こ…これかい?」

「シュウ、それは常に左胸につけておいて。私たちは面と向かったら言葉を発さずともテレパシーでコミュニケーションは取れる。でもこのバッジを心臓近くにつけていたら、半径で5Km圏内でテレパシー通話が出来るの。先っき私がシュリを呼んだようにね。それだけは忘れないで」シュウは左胸にバッジをつけた。

「OK!それじゃあ二人とも、頼むわね。待ち合わせ場所に彼女はもう来てるはずだから」二人は依頼者のジョディが待つ喫茶店へと向かった。


 喫茶店では先に着いていたジョディが、不安そうに周りの様子を覗っていた。

「こんちー、ヘプター探偵社のシュリちゃんだよぉ」シュリはジョディに軽く挨拶した。

「同じく僕はシュウだ。ジョディ、よろしく」二人の挨拶を聞き、ジョディは安堵の表情を浮かべた。

「早速だが詳細は承知している。問題はその相手に心当たりがあるのか、付きまとわれる覚えがあるのかだが、その辺はどうだい?」シュウは資料をデスクに広げ、ボールペンを握った。

「心当たりなんてありませんし、付きまとわれる覚えもありません。でも私の勘違いでもないんです。これを見て下さい」そう言うと、ジョディは十数通の便箋入り封筒を取り出した。シュウは便箋の内容を確認した。そこにはジョディを脅すような内容の文言が並べ立てられていた。

「こいつぁ、非道ひどい。分かった、しばらくは君の身辺警護を遂行しながら、そのストーカー野郎の正体を突きとめる。とりあえず君は普通に過ごしてくれ。それからこの手紙は預からしてもらって良いかな?」ジョディは頭を下げると、最後にコーヒーを一口すすって店を出た。

「ふーん、中々板についてんじゃん。とりあえず合格なんじゃん?」シュリは棒付きキャンディをシュウに手渡した。

「あぁ、ありがとう。とにかく彼女から出来るだけ離れないように尾行つけよう」シュウとシュリは店を出て、ジョディの後方30mを尾行し出した。


 一日中尾行をした二人であったが、ストーカーが現れる事も、気配を示す事もなかった。ジョディがアルバイト先から帰宅した事を見届けた二人は、一旦事務所に帰る事にした。メリーへの報告を済ませ、事務所中央の大テーブルに腰掛けた二人は、依頼について審議する事とした。

「要は証拠物件のこの封筒だよな。ここから何らかの糸口は掴めないか?」シュウはテーブルに数十通ある手紙を広げた。

「そんなのあるんだったらさぁ、ブライアンに頼もうよぉ。ブライアンならサイコメトリーで、犯人の顔くらい簡単に見えると思うよぉ」シュリは手紙の一通を手に取り、まじまじと見た。

「サイコメトリー?何だよ、それって」シュウの言葉を聞いて、シュリは手紙を置いて、その上に手の平をかざして瞳を閉じた。

「何かねぇ、こうやってすると、この手紙に残された意思とか念みたいなものが残像として残ってて、それが見えるんだって。それがサイコメトリー」シュリの話しを聞き、シュウには思い当たる節があった。シュウはシュリを真似て念じてみた。

「うわぁ、何だ?この惨状は?」シュウは閉じていた目を大きく開けて、額から汗をにじませた。

「なになに?どんなんが見えたの?」

「あぁ、大きくバンパーがひしゃげたトラックと、その近くに倒れて破壊されたバイク、それにその周りに血の池が見えた」シュウは焦点が定まらず、どこを見ているのか分からない視線で、息を荒くした。

「何だろう?とにかくもう少し詳しく見てから、ジョディに確認しようよ。きっとそこにヒントがあるはずだから」シュウは眉間がつぶれるほど目を閉じて、再び手紙の残像を探してサイコメトリーした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る