超NO ROCKな探偵社

岡上 山羊

第1話 天才マジシャン シュウ

「テレビをご覧の皆様。この緊迫感が伝わるでしょうか?今から天才マジシャンとして有名なシュウさんが果敢な挑戦にいどもうとしています。なんと、この燃え盛るキャンプファイヤーに向かって、手足をくさりしばられた状態で飛び込み、無事に脱出すると言うのです。失敗すれば焼死は必然!それではチャレンジ、スタート!」轟々ごうごうと燃える、木材をやぐらに組まれた炎の中、手足を縛られた若者が、アシスタントの手によって突き落とされた。その瞬間、燃え盛る炎は、より大きさを増し、大爆音を立てて爆発した。

「キャーッ!」観衆たちの悲鳴が一帯に広がり、番組スタッフたちが消化器を持って、キャンプファイヤーの消火を図った。約5分ほどかけて炎は鎮火され、後に残ったのは、消し炭と化した木炭のみだった。

「いません!ありませんと言った方が正しいのでしょう?残ったのは木材の残骸のみで、シュウさんの姿は欠片かけらもありません」リポーターの必死の実況に、テレビ画面の中も向こう側も、息を飲んだ。

「み…見て下さい!丘の上に人影が見えます」リポーターの声に反応し、テレビカメラが丘の上を映し出し、スポットライトが当たった。丘の上には傷どころか、汚れ一つなく両手を振る若者の姿があった。

「成功、大成功です!シュウさん無傷の生還を果たしました。手足に鎖の欠片も見当たりません!」若者は見事なイリュージョンマジックを成功させ、得意満面に手を振り続けていた。


「一体、どんなタネを使ってるって言うんだい?シュウ。今まで沢山のイリュージョンショーを企画してきたが、君のマジックの仕掛けだけは、全くもって見抜く事が出来ないよ」番組プロデューサーは、シュウをねぎらってロケ車にいざなった。

「マイクさん。それは禁句ですよ。マジシャンにタネを聞くだなんて。それより最近はニコラスがあまり出演しないようだけど、どうしてるんだい?」ロケ車の後部座席に乗り込み、コーヒーを受け取ったシュウは、隣に乗り込んだマイクに聞いた。

「さぁね。ニコラスはもう過去の人だよ。こっちからオファーしても、ナシのつぶてでね。何やら新しい事業でも始めたんじゃないのか?」マイクはコーヒーをすすった。

「そうか…僕は彼に憧れてこの世界に入ったんだけど、残念だね」シュウは車窓から夜のイルミネーションをながめた。


「ここらで良いよ。降ろしてくれ」シュウは自宅より1Kmほど手前で、車を停めるように指示した。

「何だって。こんな手前で?まだ大分だいぶん距離があるぜ」マイクは心配そうに声をかけた。

「良いのさ。少し歩きたいんだ。それじゃあお疲れ」シュウは車を降りて、夜道を歩き出した。

「ニコラスが行方不明か…僕なんかじゃ、到底足元にも及ばないマジシャン。って言うか、僕なんて偽者のマジシャンさ。憧れは憧れのままって事かな?」夜道を歩きつつ、シュウは感傷にけった。その時、シュウは背後に不穏な気配を感じ取った。

「だ…誰だ?」シュウが振り返ると同時に声を発すると、身体が宙に浮き、地面に叩きつけられた。しかしシュウが意識を集中すると、地面スレスレのところで止まり、シュウは身をひるがえして着地した。見ると薄暗い夜道に、細身で長身の人物と、プロレスラーのような屈強そうな人物が立っていた。屈強そうな男は、雄叫びを上げてシュウに襲いかかってきた。シュウは精神を集中させ、男のみぞおちに拳を放った。

「グッ!いてぇ!」シュウは腹に右手を抱えてうずくまった。

『こ…こいつ能力者か?』屈強な男は、次に鼻から目一杯の空気を吸い込み、大口を開けて一気に吐いた。すると火炎の吐息がシュウを襲った。

「ダメだ、やられる。てやーっ」シュウは両手で器のような形を作り、前へと突き出した。するとシュウの両手からも轟火ごうかが放たれ、炎は二人の中心辺りでぶつかり合い、押し合いを始めた。

「うぉりゃーっ」シュウはより精神を集中させ、気合と共に気を放った。シュウが放った炎は、やがて屈強な男の方に押しやられ、男の全身を炎が包んだ。

「な…何!まだ無事だったのか?」炎に焼かれたはずの男は、平然と立ちすくんでいた。

「もう良いよ。そこまでだ」今まで手を後ろに組んで、黙って見守っていた細身の男の後ろから、女の声が聞こえた。真っ赤なワンピーススカートに、リボンをあしらったハットをかぶった女は、ゆっくりとシュウの元に歩み寄ってきた。

「エセマジシャンのシュウだね。アンタのイカサマをバラされたくなかったら、私たちについて来るんだね。それとも私の仲間たち総出でアンタを襲っても良いんだけどね」女はハットのつばに手を添えて、怪しげに微笑んだ。

「お前ら、何者だ。僕に何の用があるって言うんだ」シュウは身構えた姿勢を崩さずに、警戒したまま答えた。

「フン、アンタの質問の答えは、ついて来れば全てが分かるよ。一つだけ…私たちはアンタの敵じゃない。グレゴリー、天才マジシャンさんを車に案内しな」女の指示を受け、屈強な男がシュウを誘った。正直なところ、この屈強な男とやり合ったところで、勝てる相手かどうかは微妙なところだ。そんな中、他にも仲間がいるとなれば、シュウに勝ち目はない。シュウは言われるがままに、案内に従い車に乗り込んだ。


シュウが乗り込んだセダンは、やがて町外れの雑居ビルの前で停車した。シュウは三人の男女に囲まれるようにして、ビルのエレベーターに乗せられ、やがて7階でエレベーターは止まった。

シュウが案内された部屋のドアには、"ヘプター探偵社" と切り文字が貼られていた。

「我がヘプター探偵社へようこそ。天才マジシャン、シュウ。いな、我々の仲間、

サイキック、シュウ」そう言う女や、一緒に来た男二人の他に、中にはどう見ても女子高生の少女、同年代くらいの少年、ナルシストっぽい男たちがいた。

「一体、ここは何なんだ?どうして僕がサイキックだって知ってる?」シュウは背中に冷たい汗が背筋を流れるのを感じた。

「ここはサイキックだけの探偵事務所。私はこの事務所の代表でメリーだよ。それからアンタと戦った男がグレゴリー、一緒にいたオールバックのメガネがニコラス、そっちのお嬢ちゃんがシュリ、その隣の坊やがブライアン、それからそこの、いけ好かないナルシストがケリーだよ。アンタにはこの事務所に入ってもらって、アンタの力を貸してもらうよ。返事はイエス以外は受け付けない。私たちの存在を知った者は死あるのみだからね」メリーは不敵に微笑んでシュウに小さな金属片を手渡してきた。見るとそれは "7" を型取ったバッジだった。

「このバッジは?」シュウはバッジとメリーを交互に見た。

「ヘプターは7を意味するのさ。そのバッジは我が事務所の社章と思ってくれて結構だよ。但し、ただのバッジじゃあない。そのバッジの性能については行く行く話すとして、明日の朝、早速ここへ来てもらうよ。アンタにとって初仕事が待っている。仕事内容については明日話す。それじゃあよろしくね、エ・セ・マ・ジ・シャ・ンさん」シュウは右手にバッジを強く握り締めていた。

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