母の破産が走り出す

 この世は弱肉強食、それは地球上の共通ルールだと思う。その為に多くの生き物が絶滅と進化を繰り返しているし、隷属だってした。そして、最終的に死を迎える。

 その例外を自然は創造した。親子だ。別に丼ではない。

 生まれたばかりのモノは、例外なく弱い。だが卵だったり殻だったりに守られるので、弱いながらも力を手にすることができる。そのシステムは、進化を経て強固なものになっていくのだ。のだが、時々バグが発生する。親が子をあやめてしまうのだ。そしてその欠陥を持つモノを裁く力を人類は手にした。その力を使って私の夫は糾弾される。厳密には元夫だが。

 私と夫は六年前に離婚した。原因は、いわゆるDV。だが、仕事のストレスといった平凡な理由ではない。

 夫は無職だ。『大学は出たけれど』といった理由でフリー、という訳でもない。インターンに参加せず、勿論無職になった夫は、数年間ミュージシャンを目指していたらしいが(家に楽器と思わしき物は一つもなかった)、その夢を諦めたときだ。私が夫と結婚してしまったのは。夜這いされたのちの一夜孕みだった。重大プロジェクトの後で丸一日寝ていた私を、今更だが恨みたい。

 それなら結婚せずに親元で子育てすればいいじゃないか、と野次が飛んできそうだが、彼の何も考えてなさそうで、実際考えていそうなところに少なからず惹かれてしまったのだ。簡単に言うと、男に慣れていなかったということ。加えて、結婚願望が極めて強かったことも。中高は女子校で、大学の学部も男女比が一対四なので、男慣れしてない私が完全に悪いから、いくらでも責めてくれ。

 ダメ男の夫は勿論ヒモで、私の給金を頼りに遊び呆けていた。「俺はトップのクラスタになるんだ!」それを口癖のように言っていた夫はアニメのアイドルに入り浸って、全国ツアーの全公演に行く程の廃人だったイメージしか、子どもは持っていないような気がしてならない。また、数十万円使ってもイベントアイテムが手に入れられなかっただけで私に暴力を振るったことも二度や三度ではない。

 十年前に離婚してるので、そんなたらればはもう言わないでおこう。過去が不変のものだと知っているから。

 そんな醜い夫でも、我が子にとっては、唯一の父なのだ。だから、「パパに会いたい」と言ったのには驚かなかった。週一で夫のアパートに通うようになっても。それが今回の事件に繋がったのだから、私は母親失格だ。事件について、我が子が眠りについた後、今の旦那に相談したが、「僕との間に生まれた二人は幸せに育っているよ。だから大丈夫」と言われたので、よかった。

 亡くなった我が子のことは忘れないが、今の旦那とその子どもたちとの生活では今度こそ、母親らしく。今はとても弱い母親だけど。

 そして、補足ではあるが、夫は、五年前までは確実に子供思いだった。私への暴行も、我が子を安全なところに避難させてからだった。

 良いパパさんのようなエピソードもある夫でも、不良品は選別され、一定期間閉じ込める。選考結果によっては廃棄されなければならない。それは、私にはどうしようもできない。だって私は、赤の他人だから。

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