第5話 鏡へ
もう朝なのかな。
ベッドのお布団の中に繭のようにくるまって
さっきまで見ていた見ていたらしいそんな
夢の場面を細切れの脈絡のないそんな
物語を低い雲が垂れこめ蓋したみたいな
冴えないお空を見上げてた。
みたい。
ふいに抱きしめてたなんかが
ふいに甲高く鳴り響いて
ふいにやっぱり朝らしい今日の出来立ての
少し焼きすぎたのトーストみたい。
歯ブラシくわえたわたしがいる鏡の中に
次第に薄っすら張られた霧が靄が
消えていく。
気がつくと鏡のなかのわたしはきちんと
笑ってて。
鏡のなかの今日のわたしがきちんと
今日のわたしがわたしをしてた。
やっぱり今日は傘要るんだろうな
お外の天井がさらに低くなるね。
リビングで頬張るなんかの加工肉が
なんか違和感罪悪感が半端ない。
お肉さお肉ってさあれだよねなんかそう
代替肉なんかだったら良かったのにね。
ふと思っちゃった。
わたしは何を浪費してるのかななんて。
美味しいけれど
楽しいけれど
嬉しいけれど
なにかが喉に引っかかる。
お腹が痛い
し。
わたしの血と肉とこころの熱量になる
し。
わたしの周りのみんなもきっと笑顔になる
し。
白いポットの紅茶を濃ゆくする
上白糖みたいな甘さは違和感スゴ。
熱くて苦くて渋くてどろっとべったりな
食道を焼いちゃいそうな液体がいい。
目が覚めたら電車のなかに
いつものわたしがいるのか
半歩ほど離れた座席から
多分わたしがそんな顔してるわたしを
多分見てる。
他人事みたいなわたしのわたしへの
視線が同じ。
今朝見てた洗面所の鏡の中。
頭が重い。
わたしのいる大きくって狭い箱が
わたしをどっかに運んでくみたいだね。
プラットフォームに降りた瞬間
いつもの景色が当たり前に広がる。
いつもがいつもにいつもみたいで
なんか
神さまとかに
ちょっとだけ
叱られてみたいな
なんかそんな気もする。
そんな朝。
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