第3話 空っぽのコップの水が

なんでかな


おんなの子っておんなの子の匂いの意味が


わかっちゃうの


なんでかな


例えばこの子のお鍋とか


お肉とかばかり


たくさん入れすぎなんじゃない


くすんだ色のおつゆの濁りが


鶏肉さんの豚肉さんの牛肉さんの


こころやからだの栄養とかの命が


まるで一見豊饒な物語の登場人物


キャラは濃いけどあんまり役に立たない


みたいな


だって頭のなかの理屈を満たして


体より心を納得させたい意欲でいっぱい


なんでかな


わかってるのに


急いでお野菜お魚キノコとか海藻入れても


お鍋のなかのお汁が甘くならないふっくらしない


なんかいつまでも


変に酸っぱい苦いそれに喉にチクチク刺激が


やっぱり変だな


これって食べるものだっけ


誰かのみんなの纏う空気だっけ


あっけらかんと笑ってる


て誰にだっけ


わからないけど今日もわたしだけの


誰もいないガランと吹き抜けの空々しい


お部屋にお部屋のテーブルに澄まし顔で


置いてある


おんなの子っておんなの子の匂いの意味が


わかっちゃうの


コップに注がれたお水の香りを嗅ぐみたいに


その子のこころとからだの成分が


わかっちゃうの


そのときの


今日の夕食 お鍋だった 


人種みたいな色んな具材がお鍋のなかで


浮かんでた 沈んでた


つい書きそびれた 昨日の日記みたい


不意に鳴る


カラカラと乾いた賑やかな音たち


そう神社やお寺に奉納されてぎっしり並ぶ


絵馬みたい


祈って書いた言葉たちに


嘘はないと思う 思ってる


そんな言葉の連なりが


つい書きそびれた 昨日の日記みたいだ


そう今日の夕食鍋だった


つい見詰めちゃう


お鍋のなかのお肉とか野菜とか何かかんか


おつゆは不穏に濁ってるしゴロゴロ具材は


書き忘れた 日記や 絵馬への祈ったはずの


言葉が言葉に言葉へ向かった


真摯だった はずのわたしみたいだ


おんなの子っておんなの子の匂いの意味が


わかっちゃうの


朝の街の雑踏を浸す空気やお水みたいに


わかっちゃうの


わかってしまうの





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