第27話 商隊と事件の匂い

 ベリンジャー商会頭のフリッツ曰く、3週間ほど前に湖から『ヘルクラネス古代遺跡』へ続く洞窟で落石があったらしく、しばらく不通となっているそうだ。幸い落石事故に巻き込まれた者はいないそうだ。洞窟が古代遺跡へ向かうルートとして整備されていこう、初めてのことだったらしい。


「洞窟は普段、王都から派遣された騎士団が警備・巡回と、整備する者が定期点検を行っているのですが……何分、数百年前からある洞窟なので、そろそろ耐えられなかったのかもしれません。今は復旧工事中ですが、あそこは」


「たしか洞窟の上にある沼地は危険地帯だからな」


「沼地ですか?」


 セリアはあまり村の外について詳しくないようだ。


「『商業都市プリア』と『王都』から『ヘルクラネス古代遺跡』に行くためのルートは、実はフリッツさんが今通ってきたルートと、湖の洞窟を通るルート以外にもう1つだるんだ。『ラテイアスの沼地』という所を通り抜ける。これがちょうど洞窟の真上にある」


「『ラテイアスの沼地』は危険」


「お、シトラス詳しいな。そうだ、あそこはアンデッド系モンスターが良く出る所で、まぁ不思議と沼地から他のフィールドに出てくることは無いんだが、あの沼地を通る場合の適正レベルは300だ」


「れ、レベル300!」


 『ラテイアスの沼地』ルートが『ヘルクラネス古代遺跡』に行くには最短ルートだった。あの遺跡の深部は適正レベル400のエリアがあるらしいから、不自然ではないが、実質上級者以下はあそこを通らせない設計なのだろう。 Trackトラック・ Starスター・ Onlineオンライン現役時代の俺だったら平気だけども、対アンデッド装備を揃える必要もあって、一般人には現実的ではないルートだ。


「そういうことなのです。洞窟が崩れた箇所は何箇所かあるんですが、沼地からの浸水とアンデッド系モンスターがわいてるという話もあり、そう簡単に復旧工事が進まない状態です。王都のギルドでは討伐クエストも出ています」


 あぁ、そういえばなんかそういうイベントがあった気がするな。なんだっけかな。転生してからというものの、記憶はいつも断片しか出てこないな。

 それにしても、商隊が襲われる、本来通るべき道が塞がれて迂回せざるを得ない。ふむ、これはネット小説テンプレ有る有るではないか?事件の匂いがするな。


「俺達もこのまままっすぐ商業都市まで行く予定です。護衛の方とはぐれてしまったみたいですし、一緒に行きませんか?」


「ふむ、そうですな。万が一の際には商業都市で落ち合うように言っておりますし、護衛ももしこの場に戻ってきたとしても、私どもが居なければそのまま商業都市へ帰還するでしょう」


「護衛弱い。シトラス、つよい」


「ほっほっほっ、お嬢さんは本当に強いですね。私も食べられないようにしなければ」


「オッサンは食べない。不味そう」


 おいおいシトラス、フリッツさんは平気だがルッツ君は顔が真っ青になってるぞ。



 

 それから俺たちは少し休憩をはさんで軽食をつまんだ後、安全地帯の温泉まで歩き通すことにした。一人だけ残っていた御者兼護衛の人と、ベリンジャー商会の商隊についてきた他の商会の人達で、総勢10名程度だ。


「ルッツ君は今いくつなの?」


「1、15歳になりました」


 お、ルッツ君、セリアお姉ちゃんに話しかけられて緊張してるな?お姉ちゃんキャラに弱いのかな?


「15歳だとすると、王都の学園には通う年齢か?」


「え、えーと」


 ルッツ君はフリッツさんに答えを求めてるようだった。フリッツさんはあごひげを撫でながら30秒ほど考え込み、答えた。


「もちろん、ルッツは王都の学園に通わせる予定ですが、何歳から入れるか悩んでおりましてな。私はこの歳でも独身で、このまま子を成すことなく生涯を終えてしまうかもしれない。今から子ができても、すぐには商会を継げないでしょうし、ルッツを後継者にする予定です」


 王都にある学校は15〜19歳までであればどのタイミングでも入学資格がある。最長4年、成績優秀なら1年で卒業だ。


「学園、美味しそう」


「シトラスちゃん、学園は食べ物じゃないよ」


「ほうほう、でもあの校舎はまるでお菓子の家みたいな校舎ですからな。学園祭ではミニスケールのお菓子の校舎が食べられますし、機会があれば行ってみるとよろしい」


 あー確かにあの学園はお菓子をモチーフにしたとこだったな。各教室のドアも板チョコっぽいデザインだったし。シトラスも学園に入れてやるか。スライムって学園に入れるのか?学園クエストは一定期間、他の行動が制限されるけど、なかなか楽しかった思い出があるし、検討してみよう。




 アピウス第2温泉、そこは何とワイン風呂だった。なぜか地下から温かいワインが沸いていた。トラスタの制作陣は何を考えているんだろう。ファンタジーの世界なら何でもありと言わんばかりだ。


「この温泉に併設されているコテージは全て我がベリンジャー商会が管理しているものです。かつてこの第2温泉までの道を整備する際、どの商会も出資や事業強力に関して躊躇していたのですが、私どもの祖先が先陣をきり、その功績を王国が認めてくださり、今に至ります」


 ベリンジャー商会、意外にすごかったな。たぶん、これもいわゆるチートレベルなんだろうな。


「このお湯というかワインは飲泉できるのか?」


「むこうから湧いてるものでしたら、お飲みになって問題ないよう衛生管理されております」


 ルッツ君がワインを舐めて渋い顔をしている。君にはまだ早いようだね。


「それでは皆さま、また明日」



 ワイン風呂で少し酔ったのか、その晩はセリアがぐっすりだった。相変わらず1つのベッドに3人。俺の理性もなかなかきつくなってきた所で、ワイン飲んで酔っ払ったらしいシトラスが危なかった。いろんな意味でシトラスに捕食されるところだった。



(テイル様……)

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