第28話 王都へ向かう目的
昨晩は大変な目にあった。ワイン風呂で酔っ払ってしまったシトラスに食われそうになった。性的な意味でもそうだが、どう見ても捕食しようともしていた。中々猟奇的なところがある。どうにかこうにか彼女の猛攻を躱しながら、数時間後、アルコール解毒ポーション「ウココの力」を飲ませることに成功した。
正気に戻ったシトラスは、そのまま眠り込んでしまった。人化してからスキンシップは慎重にしないといけないな。
「おはようございます、テイルさん。少しお疲れのようですね。夜中の見張りもしていただき、ありがとうございます」
俺が起きた気配に気づいたのか、ベリンジャー商会頭のフリッツさんが俺たちのコテージ付近へやってきた。どうもシトラスとやりあって寝不足だった俺の様子を、ずっと夜の見張りをしていたせいだと勘違いしたらしい。
「えぇまぁ、ここはアピウス街道沿いでも一番安全な地帯だとは想いますが、昨日の襲撃を考えると万が一のこともありますから」
「本当に助かります。今日の午後には商業都市プリアにつくでしょうから、私どもでおもてなしをさせていただきたい。また、宿泊場所もベリンジャー商会の建物に有るゲストルームをお使いください」
「こちらこそ、何から何までありがとうございます。私もちょうど、ベリンジャー商会さんへお世話になりたいと思っていまして」
「ほう、どのような要件ですかな」
ここでフランに預かっている紹介状を渡しておいたほうがいいのだろうか。まぁ心象が良いうちに渡しておくか。
「友人から、こちらの紹介状を……」
そう言ってギルド受付嬢のフランにもらったベリンジャー商会への紹介状をフリッツさんに渡す。フリッツさんは一瞬、驚いた表情をした後、なにか気にするように周りを見渡した。
「これは……たしかにこの紹介状を頂きました。いやはや、このようなものを渡されてしまっては、テイルさんに中途半端な商売はできませんな。紹介状の内容に関しましては、街へ戻ってからまたお話しましょう」
ほう、フランが寄越した紹介状はそんなにすごいものなのか。もしかしてギルド長またはギルド支部を代表してなにか書かれているのかな。一所懸命海産物の賄賂を渡しておいてよかったな。
「分かりました。そろそろ、うちのメンバーも起きると思いますので、そろそろ支度して立ちましょうか」
「左様ですな」
俺たちは朝風呂に入ろうとするシトラスを引き止め、無事アピウス第2温泉を後にした。
「シトラス、そんなにワイン風呂が気に入ったのか?」
「シトラス、温泉すき。ワインすき」
フリッツさんに一言断ってからワイン樽を3つも分けてもらい、アピウス第2温泉からワインの温泉(温泉ワインと呼ぶべきか?)を汲ませてもらった。トラスタの世界にあるワイン樽はボルドー・バレルといい、1樽辺り約225リットル入る。ちなみに、こちらの
「テイルさん……、いや、テイル殿は王都へ行って何を成さるおつもりで?」
横を歩いていたフリッツさんが話しかけてくる。王都で何を成さるって、革命を起こすんじゃないんだから。
「ホームを買おうと思っています。もっとも、まだ資金が足りませんが」
「ホーム、ですか」
ホームとはトラスタにおいてプレイヤーの拠点となる場所だ。どのような職業でも金さえあれば入手できるようになり、日々の宿代節約から転移魔法による期間、何より充実した
「ホームであれば私どもベリンジャー商会もお力になれると思いますよ。不動産も扱っていますからね。ローンも組めます」
なるほど、ベリンジャー商会はなんでも扱っていると聞いていたけど、本当になんでも扱ってるんだな。それだけの規模の商会ならあれも……
「その時は、宜しくお願いします。それから、俺たちも学園、マルニエール学園に入ろうと思っているんです」
「マルニエール学園に?ふむ」
「俺とフランで魔法専攻を取って魔術師ジョブを開放しようかと」
マルニエール学園には魔法専攻という魔術師ジョブを得るための専攻、騎士専攻という騎士団に入るための専攻がある。科という概念はなく、この2つ以外は無専攻と言い、商人や宮仕え、貴族のハウスにおいて上位の侍従になるための者が無専攻を選択する。
「左様ですか。つまり、私から学園に入るための紹介状が欲しいと」
「そうです。ベリンジャー商会ほどの規模があれば、おそらくマルニエール学園への入学推薦状が書けるのではないでしょうか」
マルニエール学園は貴族であれば無条件で入ることができ、それ以外は面接と入学試験が必要になる。また、入学支度金も多額に必要だ。しかし貴族や準貴族、大きな商会主などはマルニエール学園入学推薦権というものがあり、毎年2名まで推薦状を出すことができ、また貴族でなくても推薦権を持つものは1名だけ子息を別枠で推薦することができる。
つまり、まだフリッツさんが誰の推薦状も描いていなければ、フリッツさんの甥と俺ら2人、計3名が推薦できるはずだ。
「なるほどなるほど。分かりました。おそらく、その必要はないかもしれませんが……マルニエール学園への推薦に関しまして手配しておきましょう。それにしても、やはり、ルッツは今年の入学を推薦しておきましょうかな。あなたと同窓生なら彼も学ぶことも多そうだ」
その必要はない?そんなにベリンジャー商会は推薦できる伝が多いのだろうか。そう言えばルッツ君はセリアに気に入られたらしく、後ろから抱きしめられたりしてもみくちゃにされている。歳は3つ違うとはいえ、彼もお年頃の男の子だと思うのだが。
「フリッツ様、テイル様。そろそろ商業都市プリアの入場門です。テイル様は身分証のご用意をお願い致します。フリッツ様の商隊護衛として登録しておきますので、優先入場門を使用致します」
ベリンジャー商会の規模になると優先入場門といい、ほぼ入場待ちの列に並ばなくてすむ。フリッツさんをたまたま助けることになって良かった。
本当はバグ技を使ってアリシア街道の途中から一気に商業都市プリアへ入ろうと思っていたんだけども、フリッツさん達がいると、不用意にバグ技を使ったり、教えたりするわけにもいかない。今の所、自分のパーティーメンバーくらいにしようと思っている。だけども、こうやって貴重な情報収集や縁をいいタイミングで築けた。
(プリア。美味しいワイン、あるかな)
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イタリアのプーリア(プッリャ)ワインは美味しいですよ
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