第26話 盗賊とシトラスの強さ
月明かりで目を覚ました。この
異世界転生の話なんか読んでると、主人公が月を眺めると地球のことを思い出すなんてシーンがたくさんある。おそらく自分は地球で既に死んでるし、戻りたいとは思わないんだけど、なんとなく懐かしさを感じる。まぁ、地球の月よりも、
1人と1匹、セリアとシトラスはまだぐっすりだ。アピウス街道にある温泉は周囲にモンスター避けの結界が張られてるため安全だ。スライムであるシトラスが大丈夫なのか、と思ったけども、テイムして使役してるモンスターには影響しないらしい。よく出来てる。
月と言えば、地球にいた頃は月が地上にせまってくるゲームとか、月に行くゲームとかあったな。たしかトラスタにも月に行くクエストがあったはずだ。レベル200以上になったら挑戦してみよう。
「テイム、おはようございます」
「テイム様、おはよう」
月夜の空を眺めていたら、いつの間にか眠りについていたらしい。ふと目を覚ますと、2人が朝食の準備をしていた。んん?2人?
「なぜ美少女が2人いるんだ?」
「テイム、美少女なんて……」
セリアが顔を赤くしている。
「人型になれた」
オレンジ色の髪をなびかせた少女が俺の疑問に答える。もしかして……
「シトラスなのか?」
「そう。なれた、人型」
驚いた。スライムって人型になれるのか?シトラスが特殊個体なのか。またスライムの謎が増えたな。と、それどころじゃない。
「ふ、服着ろ服!」
長い髪で色々隠れてたけど、さすがに女性の人型で裸なのは困る。いくらスライムとはいえ。
「まぁ良くわからないけど朝飯食べるか」
シトラスに服を着せ、顔を赤くしたまま固まってしまったセリアの代わりに、できあがった朝食を分けていく。地球のアイテムが多いVRMMORPGの世界に転生できてよかったな。干し肉や乾パン、野菜クズのスープなんて1回だけで十分だからな。
雰囲気台無しかもしれないが、粉溶かしてカップスープ飲めたりするのは幸せだ。
「昨日1日歩き通したけど、今日も1日歩く。明日は半日もかからないと思う。午前中には『商業都市プリア』につくはずだ」
「今日の温泉楽しみ」
シトラスはよほど温泉が楽しみらしい。温泉スライムって種族名に変えたほうがいいんじゃないか?
アピウス街道は『王都』から大きな湖を介して『商業都市プリア』までが前半部、『商業都市プリア』から『珊瑚の街』までの間が後半部と分かれている。午前いっぱい歩き通して、いよいよアピウス街道後半部の中間地点を示すマイルストーンが見えてきた。
「テイル様、前方の道が塞がっている」
「道が塞がっている?事故か?」
シトラスは目が良いのか、それとも気配感知ができるのか。前方の様子は良く分からなかったが……
「助けてください!」
男性の叫び声が聞こえる。盗賊か!俺たちは街道を急いで駆け抜けていく。
「うるせぇ!護衛のやつらはもう居ねぇんだ。諦めて死にやがれ!」
「フリッツ様!ここはルッツ様を連れて急いで逃げてください」
「馬の脚は切れてんだ。逃げられねぇぞ」
どうやら小さな商隊が盗賊に襲われているようだ。盗賊の人数は5人くらいか?
「シトラス!」
「かしこまりましたテイル様」
水中では活躍の場が無かったシトラスだが、レベル30台の割にはレベル50台の人族、または攻撃の多様性からそれ以上の強さがあり、素早さでは俺らの中では一番だ。
「いい加減、死にさら……らら?」
盗賊たちの切りつけは商人たちに届かなかった。シリアスの体が全ての刃先を包み込み、そして盗賊たちは身動きがとれなくなった。そして……。
「いただきます」
捕食した――。
「この度は助けて頂きありがとうございます。私はベリンジャー商会の商会頭をしております、フリッツ・ベリンジャーと申します。そしてこっちが甥の、」
「ル、ルッツ・ベリンジャーです」
無事にシトラスが盗賊たちを吸収?し、商隊と馬の治療を施した。シトラス曰く、美味しくなかったそうだ。幸い、商隊側に死人は1人もいなかった。ポーション、馬にも効くんだな。というかシトラスの強さはチートではないだろうか?サブキャラチート異世界転生物語になりそうだ。
「いえいえ、間に合って良かったです」
この人がフランが言っていたベリンジャー商会の人か。それにしても偉い商人というよりは、そのへんの小間使いに見えるな。それでも、フリッツさんはちょっとふくよかな、典型的な商人っぽい雰囲気だな。なんかこう昔、不思議そうなダンジョンで大冒険とかしてそうだな。ルッツくんは15歳に満たないくらいだろうか?幼さが残っている。
「あぁ、私の身なりがこのように質素で不思議に思いましたか。私と一緒に来ていた商会副頭の者が……先程、盗賊に森の奥へと連れて行かれてしまいましたが、彼がもしもの時のためにと。彼、バジリオという男ですが、バジリオが商会頭に見え、私が小間使いに見えるようにしたのです。」
なるほど。道中、万が一に襲われた時の身代わりを買って出ていたということか。バジリオという人は中々機転が効く人物だな。
「これが私の商業ギルド身分証です」
そう言ってフリッツさんは胸元から紋章と名前が刻まれたペンダントを見せてくれた。たしかにベリンジャー商会頭として身分が証明されている。
「護衛もいたのですが、盗賊の奇襲で乱戦となり、離されてしまいました。おそらく雑木林の方まで行ってしまったと思うんですが……彼の事は心配ですが、元々体術の心得もあります。きっと後で合流できると信じております」
少し悲しい表情を見せたフリッツさんは静かに息を吐いた。突然の事態で、つらい気持ちを振り切ろうとしたのだろう。
「バジリオさんのこと信頼してるのですね。それにしても、どちらから来たんですか?この辺りで別の道というと、古代遺跡でしょうか?」
「えぇ、そうです。私達はちょうど『ヘルクラネス古代遺跡』から『商業都市プリア』に戻る所でして、ちょうどこの街道まで戻ってきた所を盗賊に襲われたのです。」
「『ヘルクラネス古代遺跡』?そこだったこのルートじゃなくて、湖の方から回るルートがあるだろう?」
『ヘルクラネス古代遺跡』は『商業都市プリア』からこのアピウス街道を経由するルートと、王都に向かうルートの途中にある、湖近くの洞窟から行くルートがあり、洞窟ルートのほうが比較的安全で一般的なルートだ。
「それが3週間ほど前のことなんですが……」
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