第24話 フラン
『フランさんは何でギルドの受付嬢をやってるんだ?何のために生きているんだ?』
ある日、採集クエストで採ってきたアイテムの集計をしてる時、ふとあの人は私に聞いてきました。
彼、テイルさんに初めてあったのは、以前の職場『ネクストの村』ギルドです。王都のギルドで受付嬢として研修して1年、その後王都辺境ギルド第1支部出張所所属の『ネクストのギルド』に配属されて1年が経った頃。迷子探しや猫の餌やり、採集クエストしか依頼が無いようなギルドに、彼はやってきました。
この村の近辺にある『女神の森の下僕』。出てくるモンスターは弱いのですが、夜は危ない。私には生まれつき、相手の強さを感じることができる特殊スキルを女神様から授かっています。そうして冒険者が無理をしないように、依頼を日々振り分けていたのですが…。
テイルさんがギルドに入った時、彼の強さは未知数でした。私の能力で初めて『測ることができかった』のです。ただ不思議と、弱いわけではない、というのは分かりました。彼にからんできた冒険者はきっと痛い目をみるだろうな、でもどうしよう、彼が手を出したら両方、規定で罰せないといけない。
そんな心配をよそに、彼は正当防衛で荒くれ者を退治していました。
翌日、彼は突然『無念の結晶』と『いぶし銀の欠片』をギルドに持ち込みました。昨日までレベル10にも満たなかった冒険者だったはずなのに、50を越えています。もしかしてステータス偽造?いえ、それはできるはずはありません。そう教わってきました。
しかも彼は、すぐに隣町の『珊瑚の街』へ行ってしまうとのことでした。その時初めて、私は自分の意思で、何かをしようと思いました。気づいたら転勤願いをギルドマスターに出し、私は王都辺境ギルド第1支部本部『珊瑚の街』ギルドへ移っていたのです。
私は恵まれた父と母の元、王都で生まれ、王都で育ちました。特殊スキルを活かせる仕事、まるで運命に導かれるようにギルド職員養成学校へ入り、私は受付嬢になりました。ただ、私の人生はそれだけです。テイルさんの問いかけ、『フランさんは何でギルドの受付嬢をやってるんだ?何のために生きているんだ?』、私は答えることができませんでした。
私は今まで何のために生きていたのか、私はなんのために生きているのだろう?
日々、とてもレベル50〜70代の冒険者とは思えないような量の採集物を持ってくるテイルさんを見て、私は時々ぼーっとするようになってしまいました。淡々とギルドの受付業務をしていたのに、なにかこう、日々の変化を感じるのです。
心配したギルドマスターは、私に1週間の休暇を与えてくれました。そういえば、仕事が無い日はギルドの寮で寝てばかりでした。ご飯を食べに街へ出かけることはあります。必要な生活品を買うこともあるし、なんとなく髪飾りが必要だから買います。
でも、1週間の休暇、何をしていいか分かりませんでした。砂浜を散歩していた時、入り江の方で釣りをしているテイルさんと、同じパーティーのセリアさんを見かけました。いつもそばに居る『ダマシウチスライム』も一緒です。たしか名前はシトラスさん。いつの間にか『女神の下僕の森』でテイムしたらしいです。騙し討ちされなかったのでしょうか?
そういえば『深海に至る海の森』ダンジョンに潜る日もありました。私は心配で後をつけてみました。最初話を聞いた時は、潜水スキルが無い中で攻略すると言っていたのですが、いつの間にか潜水スキルを取得していたみたいです。私より泳ぎがうまいので、潜水スキルもかなり上位スキルレベルでしょう。
そうして何日もストーカー……心配で後を追っている間に、『深海に至る海の森』にある海底神殿が目に付きました。ギルド受付嬢としてある程度のレベル上げをするために何度も潜っていたのに、今まで気にしたことも無かった、海底神殿。
私は何を思うもなく、熱帯魚の巣となっている女神像に祈りを捧げ……意識を失いました。
『あなたはテイルと冒険に行くのでしゅ…こほん…ですよ』
(あ、かんだ)
『かんでましぇ…せんよ』
私は目の前にいる女性が女神様だと思いました。
「何かようですか」
『はい』
女神様に対してそんな言い方どうかと思いましたが、私は気になることはズケズケと聞きたいタイプです。
『図々しいフラン・ツー・アンデルスよ、テイルと共に旅をし、この
「あ、この世界、トラスタって言うんですか」
『……あなたもですか。そうです』
「なぜ私のフルネームを知っているのですか」
『女神だからです』
「そういうものなんですね。ありがとうごz…『目覚めよ!』」
―― ふわっ。
目が覚めると私は海中を漂っていました。そういえばもうテイルさんは20回目のボス攻略を終えているところかな。いったい、どれくらい周回をするんだろうか?あぁ、あそこのイルカ可愛いんだよな。
何のために生きるのか……。今日はもう帰ろう。女神様に共に旅をしろと言われてしまった以上、言うとおりにしよう。私は図々しいが物分りも良いのだ。
「私はあなたと旅に、冒険をしていたい」
楽しい人生を、送りたいな。
彼が『珊瑚の指輪』を賄賂にくれたのは、その日のことでした。
―― 「今日の日記はこれで終わりにしよう」
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