第23話 珊瑚の街ギルドからの依頼

「地上の天気は……雨か。珍しいな」


 『深海に至る海の森』ダンジョンを攻略した俺たちはボスエリアの奥にある転移陣から地上に出てきた。『深海に至る海の森に至る海の道』へ行くための桟橋の上だ。ぽつぽつと降り注ぐ雨の中に、人影はない。


「『珊瑚の街』では雨は珍しいんですか?」


「あぁ。月に3,4回降るかどうかだ。季節によっては全く降らない月もある。『パンチツヨイシャコ』の数が多いと思ったら、少し海が荒れてたみたいだな」


 『パンチツヨイシャコ』は荒れた天気の時に出現しやすい。正直ダンジョン内と外の天気なんて関係なと思うんだが、システム的に何かつながっているとか、影響があるのだろう。ゲームだったらそうやって作ってるだろうし。


「手持ちに傘が無い。まぁ雨が降っても特に冷えない地域だし、このままギルドまで向かって行って、入る前にタオルでふこう。シトラスは……スライムだから問題なさそうだな」


「うん」


 水着を着たままギルドに向かう。水着なら濡れても問題ないだろう。こころなしか、このままシャンプーとかしてみたくなってきた。




「えぇ!?ダンジョン攻略したんですか?」


 ギルド受付嬢、フランのしっぽがピンと逆だっている。たいそう驚かれているようだ。


「あぁ。採集クエストにあった『深海ワカメ』と『パンチツヨイシャコの卵』も採ってきたぞ。あとこれは賄賂……じゃなかった、お土産の『真鯛の刺し身』だ。まだしばらくここにお世話になるから受け取ってください」


「じゅる……ありがとうございます」


(フランは狼なのに魚介類が好きなのか?)


「テイル、しばらくって言ってもどれくらい滞在することになるの?」


 セリアはよく首をかしげる子だと思う。スライムであるシトラスまで首をかしげているように見えた。


「そうだな。採りたいアイテムがあるんだが、なかなかレアでな。たぶん1ヶ月くらいはかかると思う。それ以上は経験値的にレベルも十分上がって頭打ちになってしまうから、もし見つからなかったら一旦次の街へ移動するよ。そうだな、王都を目指すことになる」


 『珊瑚の指輪』はだいたい1ヶ月粘れば入手できると言われているが、 Trackトラック・ Starスター・ Onlineオンラインの知識が正しいとは限らない。最悪の場合、手に入らないものなのかもしれない。まぁのんきに釣りゲームでもはさみながら、挑戦してみよう。


「そうしましたら、長期滞在割引しておきますよ」


「いつ旅立つか分からないぞ?」


「旅立つ日に、連泊した日数に応じて割引し、支払い済みの宿代をお返し致します。合わせて、基本の食事代は半額にしておきますよ」


「へぇ、そんなことできるのか」


「私、これでも副ギルドマスターに近い権限持ってるんですよ?」


 そんな設定があったのか。いや、設定か?この 世界トラスタはあくまでこの 世界トラスタだ。もう慣れてきたと思ったんだが、色々と違和感や気になる点はぬぐえないな。それにフランの様子はまるで……。


「うん、まぁサービスしてくれるというなら、ありがたくお世話になろう。それで、目的はなんだ?」


 とは言え、いくらなんでも優遇する以上、なにか理由があるだろう。表立って書かれている優遇特典ではない。きっとフランが個別に何かを判断し、引き換え条件をもって行っている優遇処置だろう。


「んーテイルさん鋭い。というのもですね、天気予報によると、今月はしばらく海が荒れる日が出るみたいなんです。今日みたいに。ギルド調査員によるとモンスターの出現量も例年より増えていてですね。潜水スキルも持ってないテイルさんが初回でいきなりダンジョン攻略達成。1ヶ月はいると聞いたらもう、そういうことで討伐お願いします」


 あぁ、そういうことか。


「ノルマは特に無いんだな?」


「はい、お探しのアイテムを採るための周回ついでにやっておいてください。あと私にお土産ください」


「フランさんって食いしん坊ですね〜」


 セリア、お前人のこと言えないぞ。


「欲に正直な人間だ」


 シトラスもあまり余計なことを言うな。


「あ、宿代にモンスターさんの分は入ってないですよ。ただ、宿泊名簿には書いておいてください」


「あぁ、えーっと『ダマシウチスライム』の『シトラス』だ」




 常時依頼のクエストはわざわざ契約書を書く必要が無いのだが、今回は一応ギルドからの依頼ということで、討伐数に応じて都度窓口で報酬を精算、このギルドを離れる時に宿代と同じ用に、累計討伐数でボーナス報酬を精算してくれるらしい。

 一通り書類手続きを終えた俺達は宿部屋に戻る。


「セリア、風邪ひかないようにもう風呂に入ったほうがいいぞ。先に入れ」


「ありがとうございます。覗かないでくださいね?」


 そう言ってセリアは脱衣所に入っていった。んー、ネット小説的には何かラッキースケベがありそうなんだが、俺はこう見えて紳士だ。決してそんなことはしない。今は。



 しばらくして出てきたセリアと交代で風呂にはいる。どうして女の子はお風呂から出るといい匂いがするのだろうか?あれは石鹸とかとは違う香りだと思うんだが。いかん、いかん、余計なことを想像してないで早く湯につかろう。


 トラスタの開発者はよく考えている。そう、日本人にとって風呂は大切なんだ。ローファンタジーじゃないのだから、もうガッツリ部屋に近代的な風呂がくっついてる。蛇口をひねるとお湯がでる。当たり前のようなものが、ハイファンタジーの世界にあるのだ。



「で、なんでシトラスが一緒に風呂に入ってるんだ?」


「私はスライムだから問題ない」



 相変わらず掴み所がないスライムだ。スライムだけに。答えになってないぞシトラス。

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