第22話 深海に至る海の森の可愛いボス
「か、かわいい」
セリアがイルカを見て興奮している。
「これが『カワイイイルカ』だ。そう、とても可愛い。だけど、不思議なことに倒せない」
「かわいいから?」
「いや、それもあるんだが、攻撃が一切通用しないんだ。しばらくすると『ステルスザメ』が出てくる。そいつを全て倒すのがここのクリア条件の一つだ」
『ステルスザメ』を倒すにはレベル150以上で、それなりに装備やスキルを充実させる必要がある。とてもじゃないけど今は太刀打ちできないだろう。
「しかし、今の俺たちでは勝てない。そこで『カワイイイルカ』と戯れる必要がある。が、あの可愛い顔に似合わず、攻撃力の高い超音波攻撃を乱発してくる」
「うぅ、近寄りたいのに……」
『カワイイイルカ』は潜水スキルを身に着けたプレイヤーに対する初見殺しとして有名だ。とても可愛くて抱きつきたくなる。攻撃もしたくない、そんな中、超音波攻撃にさらされ、『ステルスザメ』に食いちぎられていく運命を迎える。
「そこでこのアイテム、『調教師のお古の笛』だ」
「『調教師のお古の笛』?」
「このアイテムは別の港町にある水族館の売店で入手できるアイテムだ。お古ってついてるけど、きちんとした新品で売られている」
相変わらず『カワイイイルカ』といい、『調教師のお古の笛』といい、ネーミングセンスがおかしい。おそらくこれらの名前も、
「このアイテムを使うと一定時間『カワイイイルカ』が大人しくなる。その間に近づいて頭を撫でてやるんだ。できるか?」
「やります!」
「『キュッ』と鳴いてイルカの顔がキリっとなったら10秒後に攻撃が再開される。体当たりは大したダメージじゃないが、超音波はかなりダメージがでかい。だから、基本的に耳を塞いで待機、これの繰り返しだ。10回くらい撫でれば終わるが、15回以上かかると『ステルスザメ』が出る。そうしたら詰みだ」
それからしばらく、セリアとイルカを堪能した。他にも特定のスキル「お前を消す方法」というのを習得すると、イルカは逃げていくボスクリアになるのだが、これは習得がそこそこ難しく、個人のセンスが問われる。基本的に笛を使うのが一番良い。
「テイル、私幸せです……ふふふ……」
セリアはすっかり『カワイイイルカ』に魅了されてしまったようだ。されてしまったようだ。満足した『カワイイイルカ』は何処へ去っていき、ドロップアイテムが湧き出てきた。
「んー、目当てのものがドロップしなかったが、まぁいいか。セリア、『カワイイイルカ』はボスモンスターだからテイムできないが、代わりにこんなものを手に入れたぞ。
顔が崩れてしまっているセリアに渡したもの、それは『カワイイイルカのぬいぐるみ」だ。セリアはきっとぬいぐるみが好きだし、喜ぶだろう。毎晩、柴犬みたいなぬいぐるみを抱えて寝てるしな。
「きゃー!かわいい!」
「俺が目当てのものはドロップしなかったから、経験値稼ぎや採集クエストも兼ねて、これからしばらくこのダンジョンを潜ろうと思う。1泊2日で攻略したら半日休憩、釣りでもして、また1泊2日、翌日は1日休み、みたいな感じだな」
「目当てのものってなんだったんですか?」
さっそくぬいぐるみを抱きしめているセリアが小首をかしげる。このぬいぐるみは完全防水で、海中のなかでも濡れない不思議なぬいぐるみなのだ。
「『珊瑚の指輪』というアイテムだ。大した特殊効果は無いんだが、ちょっと渡したい相手がいてな」
「そうなんですか」
セリア、すまない、そんな顔で見ないでくれ。この指輪はセリアに渡す予定では無いんだ……。
ボスが居たエリアから先に進むと、水がはけた所に女神の像があった。ついでに『ダマシウチスライム』のシトラスも召喚しておく。
「2人とも、この女神像の前で膝をつき、『スキルください』とお祈りするんだ。そうすれば潜水スキルがレベルマックスで手に入る」
俺は1人と1匹を呼んで女神像に膝をついた。なんとなくだが、きちんと潜水スキルが手に入るはずだ――
『テ……よ。聞こ……ましゅ……す……か……あな……キル…………す』
「え、なんて?」
―― ガンっ
いてぇ、頭打った。何か声が聞こえた気がするけど、なんだったんだろう。あぁ、それより潜水スキルだ。ステータスを見よう。うん、きちんとレベルマックスで取得できている。
「やっぱり噛んだなぁ、あの女神……。テイル!潜水スキルを取得しました」
「潜水スキル、手に入った」
二人の様子を見る限り、無事に取れたみたいだな。
「よし、とりあえず1回目の目的は達成した。そのまま奥に行けば転移陣があるから、ダンジョンから抜けよう」
地道にバグ技を使ってきたけど、どうせ転生するなら最初から主人公完全チート補正で転生したかったな。今度女神像を見かけた文句言ってやろう。
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