第19話 深海に至る海の森 海底神殿

「そう言えばテイル、以前捕まえたスライムは使わないの?」


 ダンジョン手前でたこ焼きとイカ飯を完食したようで、セリアはふとそんな話をかけてきた。


「ん?あぁテイムしたダマシウチスライムか。それなりのレベルではあるんだけど、あいつの水中装備が無くてな。モンスターは装備できるアイテムが人族より制限されるんだ。あのままだと水中戦は不利で、不足の自体を考えると、かばいながらダンジョン攻略はやめておこうと思ってな」


 なかなか旨いタコだった。今度は別のタコ系モンスターを討伐して、タコ刺しを食べよう。


「そうなんだ。でも、地上にいる間はそばにいさせたほうがいいよ?」


「なんで?」


 モンスターは必要な時に召喚して使役させればいいと思うんだが、経験値も入らない街中でわざわざそばに居させる必要はあるのだろうか。


「なつき度が上がるんだよ」


「なつき度?魔物使いが持つスキル上げとは関係なく?」


 初めて聞いた。 Trackトラック・ Starスター・ Onlineオンラインをプレイしていた時代にそんなものは聞いたことがない。魔物使いの固有スキルを上げていけばモンスターは言うことを聞くし、レベルとは別に強いわざを使用するようになる。


「そうそう。以前村に来た魔物使いの人から聞いたんだけど、最近モンスターには『なつき度』というのがあって、まぁ結局それがなんなのか分かってないんだけど、そばに居させる時間、衣食住を共にする時間が多いと『なつき度』が上がるんだって」


「なんじゃそりゃ」


「モンスター研究の第一人者が女神様から聞いたらしい」


 女神から聞いた……ということは、ゲームで言うところの仕様が追加されたのだろうか。『なつき度』の重要性は別として、これは重要な話を耳にしたな。 Trackトラック・ Starスター・ Onlineオンラインと、この 世界トラスタの違いであり、このように今後とも新しく仕様が変わる点と、既にいくつか仕様が異なる点があるかもしれないということだ。


「そうだな、まぁよく分からないが、なつき度は上げてみよう。ダンジョンの中には水中じゃないエリアもあるし、そこでは出しておいて、ついでに経験値も分けてレベルあげしておこう」



 十分タコも食ったし、セリアと野営地を片付ける。基本的に水中では火を起こすことができないのだが、『テント』系アイテムは全て水中でも使用でき、その中では火が起こせる。しかし、動きは水中の動作と同じ。あまりにもいい加減な作りでツッコミどころ満載だが、まぁいつもどおりトラスタらしい仕様だ。

 なぜ水中でテントが張れるのか?それは制作陣か女神しか分からないだろう。制作陣にはもう会えないだろうから、女神様とやらがまた出てきたら聞いてみよう。ネット小説だって何回も神と会うシーンがあるし、きっと会えるはずだ。




「きれいな建物ですね」


「あぁ、王都の建物も綺麗だが、ここも中々に芸術性が高い。さながら海底神殿だ」


『深海に至る海の森』ダンジョンは、前半が海底神殿、後半が森となっている。正確には大きな海底神殿の中に水草の森が広がっているらしい。そしてどういうわけか、日の届かない深い海なのに日光が届く場所がある。そこは強力な敵も出てこないし、場所によっては完全な安全地帯だ。


 海底神殿の中に森があるという構造は、通常プレイではそこまで外観は分からないものだが、バグ技マップ師と呼ばれる人たちがいて、バグ技を駆使して色々なマップの外側・裏側を調べ尽くした。中にはバグマップにたどり着いて何度も死んだやつがいる。彼らはバグマップを恐れないのだ。

 さすがに怖くて俺もバグマップ技は使おうと思わない。バグ転移も似たようなものだが……。バグマップを駆使すれば、ゲームのメモリ、まぁ色々とシステム的な部分をいじることができる。それはかなり強力なバグ技なのだが、この 世界トラスタでそれを行うのは、何か神に抗うと言うか、禁忌な気がする。


 既に抗っているか。

 


「それにしても、どうしてこのダンジョンから攻略するんですか?」


「潜水スキルというのは、こことはまた別の街で訓練を受けることによって得られる。このダンジョンを攻略できるまでの潜水スキルになるまでには時間がとてもかかるんだ。で、このダンジョンを攻略するとバ……女神による挑戦者へのご褒美が授けられる」


「ご褒美?」


「そう、潜水スキルを取得せず(正確には使わずだが)攻略したものには、なんと『潜水スキル』をスキルレベルMAXで授かる」


「えぇ!?そもそも潜水スキルが無いと行けないダンジョンなのに?」


「まぁあれだ、人というのはそれだけ不可能を可能にする、希望に満ち溢れた心の強い生物であり、それを讃えようってことだな」


 バグですとは言えないので、適当なことをでっちあげておく。相変わらずセリアはそんな話で納得したらしく、女神信仰も強まったようだ。




 しばらく神殿を進んで行くと、目の前にいた冒険者が突然吹き飛ばされ、勢いそのまま俺たちの真横を抜けて先程のフィールドまで吹き飛んでいった。


「セリア!俺の後ろに」


「きゃっ」


 神殿の内装に見惚れて先陣を切っていたセリアを掴み、勢いよく後方へそらせる。


「パンチツヨイシャコだ。こいつの攻撃はクリティカル率とスタン率が高く、加えてかなり後方に飛ばされる」


 目の前に突如現れた『パンチツヨイシャコ』。エビに少し似た甲殻類、シャコをモデルに作ったモンスターだろう。モンスターらしくするために、体格も2mくらいある。ただ見た目はデフォルメされて可愛らしい。甲殻類がリアルででかいと、ちょっと気持ち悪いと思ったのだろう。トラスタは変なところが優しい。


「ちなみにドロップアイテムの『パンチツヨイシャコの身」は旨いぞ。味噌汁でも寿司でもいける。とりあえずセリアは防御に徹してくれ」


 『パンチツヨイシャコ』はシュッシュッと鳴き声を出しながらボクサーみたいに前足を動かしはじめた。前足が動くことによる風切り音ではなく、わざとその動きに合わせてシュッシュッと鳴く。なかなか可愛い。一時期ぬいぐるみも販売されていた。地球のシャコも、捕脚と呼ばれる脚で強力なパンチを見舞うらしい。


「よく覚えておけ、コイツの弱点はだな……」



 そう言って俺はおもむろにアイテムボックスから『ナイローン神の網』を取り出し、『パンチツヨイシャコ』めがけてぶん投げた。


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