第18話 深海に至る海の森に至る海の道

 昨晩は大量に採集した「ウニ」や「カキ」をメインに「カニ」も購入して豪華な海鮮BBQを楽しんだ。結局セリアはお湯で体を清めるまで「スクール水着」装備のままだった。ちょっと抜けてるのかもしれない。


「『深海に至る海の森』、もう行くんですか…?いくら潜水スキル無しでダンジョンに行けるとはいえ、奥は適正レベル70ですよ」


 受付嬢のフランさんが心配そうな顔をする。耳がペタンとした狼獣人もなかなか可愛いものだ。


「今回は野営していきますが、大丈夫ですよ。できる限り安全なルートを通っていきます。多少光がさす所であれば、モンスターのレベルも落ち着いてるでしょう」


「テイルさん、本当はもっと高レベルの冒険者なんじゃないですか…まさかそんなことまで知っているなんて」


 深海は光が届かないダンジョン、というかダンジョンだから届くも届かないもの無いと思うんだが、そういう設定になっている。なので基本的に昼夜問わず出てくるモンスターは危険なのも多い。ダンジョン手前は適正レベル20〜40だが、奥まで行くと適正レベル70。そしてスポットという呼ばれる場所がランダムであり、適正レベル40の所に突然適正レベル70のモンスターが出現する


「いやいやフランさん、ギルドに冒険者レベルが騙せないのはご存知でしょう」


「それもそうですね。いや、でもテイルさんなら…」


 なかなか鋭いというか、疑り深いな狼さん。赤ずきんを騙すだけある。ゲーム時代、ほぼ違法ツール「ジャミングアドオン」を入れればレベル偽装はできる。今はそんなツールもってないし、偽装もしてないが。


「テイル、どれくらい潜るんですか?」


「ボスまで行ったらダンジョンに向かうフィールドの地上、つまり砂浜エリアに転移できる魔法陣がある。だから、2日程度だ」


「ダンジョン、けっこう小さいんですね」


 セリアがへーっと納得する。


「いや、普通は2日でクリアできないですよ…。しかもレベル50じゃないですか」


 フランさんはもうどうやって解決するのか、突っ込むのは諦めたようだ。




 『深海に至る海の森』ダンジョンへは、『深海に至る海の森に至る海の道』というフィールドを通る。もうちょっとどうにかならないのか、というフィールド名だ。砂浜エリアの一箇所に桟橋がかかっていて、そこをしばらく歩いていくと、海上にある岩山にたどり着き、その洞窟へ進む。


「セリア、この洞窟を少しいけば、大きな水たまりがある。そこから海に潜る。水たまりに入って全身が海水に浸かったら、女神の加護『海底散歩』だ。ステータス画面を開くあれだ」


 このフィールドの適正レベルは30程度。ダンジョンまでの案内はロープや柵が点々と張ってある。バグを使わず潜水スキルを持ってる人は泳いで進むのだが、俺達はバグで潜水しているため、浮くことができない。海底を歩いていくのだ。そのため、ちょっと海底内で崖や棚が急斜面になってるところへ足を取られると、奈落の海の底へ落ちてしまう。

 海の底へ落ちたから死ぬわけではないし、手抜きなおかげで水圧なんて概念は無いのだが、海の底は適正レベル100からのフィールドなのだ。セオリーではレベルが上った冒険者が、また『珊瑚の街』へ戻ってきて、海の底エリアを攻略していく。今俺たちが落ちたら、まず助からないだろう。


 そうして気をつけながらフィールドを進んでいくと、途中すれ違った冒険者が不思議そうな目でこちらを見てくる。なんたって泳げばいいのに、わざわざ海の底を歩いているからだ。もっとも、俺がセリアの手をひいてるのもあって、海底散歩に楽しむカップルにでも見えたのだろう。


「なんだか恥ずかしいですね」


「はは、まぁレベル上げを優先した結果だ。潜水バ……、『女神の加護』はこれで役に立つが、時と場所による。潜水スキルを身に着けたら、また遊びにこよう。海底散歩も楽しいが、魚と泳ぐのも悪くない」


 このフィールドを歩いてると不思議に思うことがある。たしかにダンジョンへは泳いで行くはずなのだが、なぜか海底を歩くことを前提にしてるんじゃないか、と思われるような作り方なのだ。わざわざ水の抵抗を感じながら海底を歩くよりも、泳いだほうが早い。なのに、海底にきちんと道案内の柵とロープが点在している。


 潜水スキルバグ、わざと取りこぼしたのだろうか?



「あ、テイル。タコさん」


 セリアに腕を引っ張られると、見上げた方向にはマントをはためかせた真っ赤なタコ型モンスターがこちらに向かってきていた。なかなかのスピードだ。低級冒険者には少し厳しいだろう。


「あいつは『ユデタコ』っていうモンスターだ。あのマントのおかげで海中を猛スピードで泳ぎ、腕で冒険者を絞め殺して食べる。普通のタコと違って墨ははかない。弱点はマントで、それをちぎると動きが鈍くなる」


 とあるモンスター学者の研究によると、マントは身体の一部で、その進化の犠牲に墨袋が無くなったらしい。マントはエイヒレのような旨さがあるとのこと。『ユデタコ』とはちょうどいい、昼飯が決まった。


「今のレベル差なら剣技だけで勝てそうだろう。俺が引き寄せるから、セリアが後ろからマントを切ってくれ。その後、もしかしたら振り向くかもしれないが、そのまま切り伏せられるはずだ。あいつは割と視界が狭い」


 そう行って威嚇スキルを使う。『ユデタコ』は元々赤いが、こころなしか更に赤くなった気がする。あいつの肉は茹でると青くなるらしい。食欲が失せるような毒々しい青さになるとのこと。

 威嚇スキルが強すぎたのか、説明している間に距離をつめられたのか、タコ野郎とキスしそうになった瞬間――


サクッ。


「テイル、やりました!倒しましたよ」


 見事にタコは切り伏せられ、『ユデタコマント』と『たこ焼き』がドロップした。が、すぐに当たり一面の視界が暗くなった。


「セリア、どうも威嚇スキルを強くしすぎたらしい。周囲に『ユデタコ』の巣があったのか、団体さんだ。全部引きつけて奥から順に斬り伏せていってくれ。必ずマントから切るんだ。そうしないと剣が通らなかった時に絞められる可能性がある」


「たこ焼き!がんばります」



 やはりセリアは食いしん坊だ。それから50匹ほど『ユデタコ』を倒した。3匹くらい『ユデイカ』というのも混じっていた。こいつも弱点は同じだ。倒すと『焼きイカ』と『イカ飯』をドロップする。このフィールドの好きなところは、ドロップアイテムが旨いとこである。


「夕飯は決まったな」


 セリアとホクホク顔でダンジョンの入口まで向かっていった。

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