第9話 セリア、初めてのマップバグ
Vindsveptというアーティストの「A new Adventure」という曲を聴きながらどうぞ。
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セリアを介抱した後、家まで送り届けた俺は、防具屋と武器屋を通り過ぎて次の街を目指すことにした。今回の転生で以前使っていた上級者用装備があるので、この街の防具・武器屋に用事は無いのだ。装備品には大きく分けて2つの高価付与がある。有る一定の固定値を与える、例えば攻撃力を+100にする、素早さを+150にする、といったもの、それとは別に、レベルや既存ステータスに対して上昇値を与える。例えばレベル×1.5倍のステータス上昇、とか。
前者のアイテムを低レベルプレイヤーに装備可能にしてしまうと、例えば高レベルプレイヤーから+1000のダメージを与える武器なんか渡された場合、バランスが崩れてしまう。なので大抵の場合、そういう装備は加算値に応じて装備レベル制限がある。もちろん、攻撃力だけあげても素早さ防御をあげないと、高レベルのモンスター相手では即死だ。
俺が現在所持している上級者装備は、現在レベルに応じて上昇値を補正してくれ、なおかつレベル3から装備できる。概ね無課金でプレイする場合、低レベルからレベル150辺りまではこの装備が役に立つ。
ステータス欄をいじりながら、次の村へ向かう道がある門へ向かう。『門番のオッサン』がいた門は、「はじまりの神殿」からくる冒険者が通るだけの門で、正門はこっちだ。
「テイル!待ってください」
「ん?セリアか?どうした」
おかしい。セリアが声をかけてくるのは、ゲームでは「はじまりの村」の正門を出て5歩歩みだしてからだ。
「私を冒険に連れて行って下さい。私は神に仕える巫女として共に進まなければなりません」
「おっけ」
「軽いですね…」
『村長の娘 巫女 セリアが仲間に加わった』
「とりあえず、装備を見せてくれないか」
俺はセリアの装備ステータスをのぞく。スキルを行使すると相手の装備を見ることができるが、相手が許可すればそのまま見ることができる。
「巫女のイヤリング(呪)、ぼうけんしゃセット、棍棒、村長のお守り…か。お前イヤリング以外、巫女要素ないな。村長のお守りは何も効果ないし、なんか気持ち悪いからここで捨てておこう。とりあえず次の街に着いたらゆっくり装備を直そう」
俺はセリアから村長が作ったらしい気色悪いお守りを取り上げ、茂みに投げ捨てた。ちなみに『はじまりの精霊の冠』はお告げをした後に自然と消滅してしまう。あのイベントをパスしても消滅する。昔バグ技でそれを装備する、というのがあったらしいが、ステータスが設定されてないアイテムデータらしく、何も効果が無かった。
「あれ、私の幸運値が上がってる」
「え、まじか。なんだあれ、呪い効果でもあったのか。まぁ捨ててよかったな」
「ですね。隣町までは結構距離がありますが、どうやって行くのですか?」
俺は道を歩きながら考える。この世界でバグを知っている人間はどれくらいいるのだろうか。今まで散々NPC、NPCはだと言ってきたが、セリアを含めて皆普通に生きている人間だ。少なくとも今はそう思っている。どこまで話していいのだろうか。だいたい、こういった何か世界に影響を与えるような話をすると、創造主的な何かが介入したり、色々問題が起きる気がするが…。
「それなんだが、隣町まで1分もかからない方法で行けるバ…!?…っ…なんだ」
「?」
今バグと言おうとしたら頭痛がして言葉が出なくなった。なんだこの息苦しさは。
「どうしたんですか?」
「あぁ、すまん。短時間で移動するためのバ……痛っ」
やはり話せない。どうやら自分以外の人間にバグの話をしようとすると、高位の存在から何かしらの干渉がされるらしい。困ったな…、どうやって説明しようか。そもそも自分以外にバグが成立するのかも分からないな。しかし自分だけしかできないと不便だ。誰にでも教えたいわけではないが、せめて自分のパーティー内では融通を利かせたい。
「あぁ、あれだ。その昔、大賢者が世界各地に誰でも使える転移魔法を仕込んだんだ。転移の方法は場所によって色々手順があるんだが、それを使う」
「えぇ!?そんなのがあったんですね」
「おそらく、ほとんどの人が知らないと思う。とりあえずこっちに来てくれ」
例によって壁抜けバグで次の街に転移することができる。転移というかマップバグだが。「はじまりの村」の正門から歩いて50mほどの地点、そこに何の変哲も無い木が1本と「はじまりの村まで50m」と書かれた看板、そして今にもつまずきそうな小石がある。
「ここの小石でつまずいて、看板と木の間にめり込む。それで転移ができる。念の為手をつないで一緒にめり込もう」
「め、めりこむ…???」
どっからどう聞いてもおかしな言い方だが、まさしくそうだから仕方ない。トラスタはオブジェクトの衝突判定がガバガバで、こうやって何かと何かの間にめり込む動作で、よくどっかに飛ばされてしまう。ここの場合は小石でつまずくという条件で、移動範囲が少し奥にずれることにより、バグ転移する。芸が細かい。
「大丈夫だ、怖がらなくていい。その、なんだ。巫女のイヤリングを装備していれば大体のことは加護によって守られる」
巫女のイヤリングにそんな効果は無い。あれは…今はまだいいか。とりあえずそうでも言わないとセリアが怖がってしまって先に進まない。
「分かりました。お願いします」
こうして俺たちは小石につまずき、看板と木の間にめり込んだ。きっと周囲に人がいたら中々にシュールな光景だったに違いない。
「お、うぉぉ!?まだ慣れないなこれ…」
「きゃぁ!!!!」
セリアはだいぶキツかったようだ。
ドサッ。
「うぅ…」
「あぁ、無事に着いたみたいだな。『ネクスト村』の裏井戸に」
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