第8話 女神様のお告げ
俺は10歳のころから始めてるので最初は約4年間、穴を堀続けていた。スコップバグの第一人者とまで言われ、トリスタのプレイヤー・運営オフ会では、その話を聞いた毎度お馴染み
そんなわけで、ゲーム開始しょっぱなから女の子と宿屋で一夜を明かしたとはいえ「ゆうべを楽しむ」ようなイベントは発生しないのだ。
「またお楽しみくださいね」
宿屋のNPCは何を言っているんだ??
「そもそもセリアは何で昨晩、俺の部屋に来たんだ?今日は精霊祭だし準備があるだろう」
「ワンピース着て冠被って教会でお祈りするだけだよ?」
随分質素なイベントだな。
「初めてだから不安で…」
こんな適当なイベントなのに不安だったんだな。お使いして拾った指輪上げただけなのに何で急に高感度が上がったのかよくわからない。なぜなら、一緒に宿屋に泊まるなんてイベントはゲームに無かったからだ。もちろん、『金の玉の石』と同時に『謎の指輪(仮)』を拾うなんてことも。
「どうしたの?」
セリアの顔をまじまじと見つめてしまった。ん?昨日どうして気が付かなかったのだろうか。セリア、昨日外で会ってからNPCらしさが無い…。
「いや、なんでも無い。とりあえず精霊祭の準備、してきなよ。着替えるだけだろうけど…」
俺に促されてセリアは自分の家に戻っていった。違和感を抱えたまま俺は食堂で朝食を取ることにする。
「今日の朝食はご飯、納豆、味噌汁、ほうれん草のお浸し、焼鮭、味付け海苔と温泉卵です」
宿屋のおばちゃんは受付だけでなく飯の準備もしてくれる。それにしても普通に日本の朝食だな。異世界ファンタジーならもっとこう、ベヒーモスのローストとか出てくるだろ。オークの焼き肉とか出てきて、オークはちょっと抵抗あるなーとか。そういう展開になるだろ。
「卵はね、朝採れたてよ」
まぁ味は悪くない。朝食を味わいながら、俺はトリスタに似た異世界に転生してるんだなと実感した。
***
少し遅い朝食を終えた俺は特にすることも無く、『はじまりの草原』で穴掘りを繰り返して経験値を貯めた。経験値のためには1分も無駄にしないのである。本当はモンスターを倒したほうが経験値は貯まるのだが、『はじまりの村』周辺にはモンスターが出現しない。それならモンスターが出るエリアまで行けばいいじゃないかと思うのだが、今出てしまうとその時点で「精霊祭」イベントが終わってしまうのだ。
「精霊祭」はスキップできるイベントなのだが、村長の娘であるセリアと結婚するためには必ず参加しなければならない。もちろん、RTA勢は参加しないどころか、バグ技で次のイベントまでスキップしてしまう。
軽く汗を流して教会に着いた俺はセリアの入場を待っていた。勢いよく教会の扉が開かれ、セリアは早足で女神像の前に膝をつける。なんか断罪イベントみたいなモーションだな。悪役令嬢ものにありそう。
「女神トラスターゼ様、我らを導きください…」
やけに短いセリフは、シナリオライター「はじまり」先生がめんどくさがった結果だろう。トラスターゼとかいうアミラーゼみたいな名前も、ものすごいテキトー感を感じる。
「では、巫女セリアの退場です」
神官の案内により、今度は厳かにセリアが教会の出口へ向かい出す。あぁそうか、さっき勢いよく開けて入ってきたのは、昼寝して寝坊したからだな。よく見ると寝癖がついてる。
「…!」
セリアが俺の前に来た途端、虚ろな目をする。瞳から光沢が失われてるよ。いきなり刺されるイベントか?あ、いやなんかコイツ宙に浮き始めたな。そう言えば浮遊魔法、俺も覚えてたけどレベルがまだ足りないんだよな。
「テイル…。私の声が聞こえますね。語彙力の都合上、簡潔に伝えます。あなたの力が世界に必要です。テイルよ、旅立ちなさい。えーと…使命なのでしゅ、ですから…」
んん??お告げか?女神からお告げなのか?最後噛んだぞ。
―― ドサリ。
「おぉ、セリアよ!これは女神様からのお告げか」
宙に浮いてたセリアはそのまま垂直に落下する。女神よ、もう少し丁寧に降臨を解除してあげたほうがいいのではないか。俺は急いでセリアを介抱する。
「お告げじゃ、女神様のお告げじゃ」
「オラ、オラ初めて女神様の降臨に立ち会えただ!馬券買ってくるだ!」
「あんた競馬はやめなさいって言ったでしょ!」
なんか変なセリフが混じってるが、モブNPCの村人たちが女神降臨で感動している。今さらなんだが『はじまりの精霊の冠』を装備してるのに、降臨するのは女神なんだな。
「それよりも…、何もしない村人はほっといてだな」
俺はアイテムボックスから注射型の気付けポーションを取り出してセリアに挿す。医師免許スキルはないし、静脈の位置も分からないけど、まぁトラスタの仕様上適当に挿せば大丈夫だろう。太ももあたりか?
『テイルはセリアにアドレニリンを投与した。セリアの昏睡異常が回復した』
アドレナリンじゃないんだね、そこは、アイテム名。
「ん…私……今…」
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