第10話 冒険者ギルドの洗礼

「落ち着いたか?」


「はい」


 Trackトラック・ Starスター・ OnlineオンラインがVR化された当初、転移魔法は3D・VR酔いがひどかった。それでも人は慣れていったが、壁抜けなどでマップバグが生じて思わぬ所に転移してしまう時、その転移バグ酔いはさらに酷かったという。というか、よくやろうと思ったな…。


「転移魔法は初めてなもので…」


 セリアには謎の高位の存在による圧力でバグであるとは言えないし、もし仮に言えてもバグ?となってしまいそうだ。本人は転移魔法と思い込んでいて、都合が良いのでそういうことにしている。大賢者様が昔作っおいた転移魔法が仕込まれた場所ということで。


 超田舎である「はじまりの村」の村娘、セリアは転移魔法なんか唱えられないし、使用したこともないだろう。それ故に本当に気持ち悪かったのかもしれない。俺はバグは少々キツイが、転移魔法自体は以前のプレイで慣れている。


「まぁ、少しずつ慣れるだろう。幸い酔どめのポーションはいっぱいあるから、好きに使っていいぞ」


 セリアに酔いどめポーション『ウココの力』100個を渡しておく。乗り物酔いから二日酔いまでなんでもござれのポーションだ。


「ありがとうございます。そう言えば私はまだ、ギルド身分証が無いのですが」


「そうだな。俺も無くし…持っていないのでとりあえずギルドへ行こう」


 この世界で冒険者をしていくにはギルドへの加入がほぼ必須だ。裏稼業専門でも無い限り、ギルド仲介でクエストをこなして収入や実績を積んだほうが良い。またギルドへ加入するとチームというのが組める。これはフィールドやダンジョンでの戦闘で経験値の振り分けや、アイテムによってはチームメンバーへの効果付与があるので役立つ。つまり、現時点ではまだセリアは俺とチームを組めてない。




 西部劇に出てきそうな扉を開けギルドに入ると早速洗礼を受けた。


「おう、兄ちゃん。かわいい娘連れてるじゃねぇか。嬢ちゃん、そんな軟そうな男置いといて俺たちと遊ばない?ぐへへ」


 なんだろうか、これはもうギルドでは鉄板なんだろうか。筋肉ムキムキで頭の剥げたオッサンとひょろっとした子分たちみたいなのが、汚い顔でコチラを向いている。んートゲトゲの肩パッド、あれは何の付与効果も無い安い防具なんだよな。さして強くもないが、レベル上げを全くしてない初心者プレイヤーじゃ勝てないだろうな。


「オッサン、生憎俺は今忙しいんだ」


「あぁん?そうだ、うちのメンバーは男も好きなやついるからな。そいつも紹介してやるよ」


 どうしても「初めて来たギルドで絡まれる」イベントというのは片付けないといけないのだろうか。とは言え、俺は現時点で低レベル。よくあるネット小説みたいに俺つえーみたいなチートスキルは無いんだよな。あぁ、でもアイテムはあったな。


「なんとか言えよオラァ!!!」


 オッサンがどこにでも売ってそうな剣で切りかかってくる。んー、オッサン割とアイテムだよりなんだな。


「テイル!」


「あぁ、大丈夫だ。俺の後ろにいろ。一応準備しておいてあるんだ、ほら」


 ―― バリッ


『保護対象者テイル、従者セリアへの攻撃を検知しました。保護モードを発動します』


 これは「いつでもマモルくん」だ。その名の通り、使用者1名と使用者が従者を1名指定して保護対象とし、攻撃をされた場合は相手にある程度のダメージを与える。与えるダメージが相手のHPの一定%以上の場合はスタン、つまり気絶状態にさせることができる。マモルくん自体は一定ダメージが蓄積すると壊れてしまうが、まぁだいたい街中でからまれた時ように常に発動している。


「そゆことでギルド職員さん、この人達あとよろしく」


 喧嘩となってしまったらどっちが悪いというのを決めるのが難しい。しかし正当防衛なら分かりやすい。この微妙な線引があるのでギルド職員も周囲もあまり介入したがらないが、このような形になれば処理もしやすいし、ギルド職員もきちんと動く。


「俺はテイル。年齢18歳。冒険者登録してくれ。こっちはセリア。歳は、」


「16歳です」


 ギルドへの冒険者登録。必要なのは名前と年齢だけだ。別に正確である必要もない。顔写真と指の指紋をいくつかとられて登録完了。冒険者は指や手を切り落とされることもあるし、念の為いくつか取る。両手やられたら?まぁ冒険者続けられる人は少ないので細かいことは考えてないようだ。義手で戦う人もいるみたいだが。


「はい、登録完了しました。お二人とも現在のレベルは15以下ですね。ランク外冒険者として登録しますので、採取クエストや低レベルモンスター狩りでレベル上げをお願いします」


 この女性はネクスト村ギルドの受付嬢、フランさんだ。狼の獣人で攻略ルートによっては仲間にすることもできる。こう見えて初期ステータスが良いので仲間にしておくと上級者中盤くらいまで役に立つ。仲間になる条件は彼女を指名して特定のクエストをいくつか達成すること。中級者レベルから少し無理しないと達成はできない。


「ありがとうございます。まぁでも明日の朝にはランクつくと思いますよ」


「ふふふ。元気な冒険者は嫌いじゃないですよ。がんばってください」


 冗談を言ってると思われたようだ。俺からしたらこの「ネクスト村」という名前のほうが冗談みたいだ。まぁどうせこのゲームの開発者のことだろう。またテキトーな名前をつけたに違いない。なんたって「はじまりの〜」シリーズでチュートリアルした後だしな。



 俺とセリアは早速その場でステータス画面を開いてチーム登録をした。チーム名は「リバース」。以前トラスタをゲームとしてプレイしてた時の名前。「リバース・エンジニアリング」、機械の分解やコンピュータ・ソフトウェアなどの解析のことを言い、バグだらけのトラスタに対するジョークみたいな意味合いでつけていた。なぜか運営もえらく気に入ってた。


 「はじまり」先生ふくめ、トラスタの開発・運営陣はゲーム進行上の致命的なバグや、リアルマネーに絡む部分以外に関しては、わりとバグを放置する傾向にある。没データとして残ってたモンスターなんかも、プレイヤーに発見されると実は隠しモンスターだったなんて後から取ってつけた言い訳をして、次のアップデートでステータスをきちんとつけて登場させたりするくらいだ。


「さてセリア、ギルドの2Fに部屋を取ってるから、そこで装備を整えたら狩りに出発するか。日が暮れる前に終わらそう」


「え、採取クエストじゃなくていきなり狩り…??」


 戸惑うセリアの手を引っ張って、俺は2Fの部屋へ向かっていった。

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