第2話 はじまりの草原……なんてものは無かった
「他にプレイヤーはいなさそうだな。神殿内では鉢合わない仕様だが、この草原では鉢会うからな。VR化された当初はひどく混雑してて、低スペックPCだとよく落ちてたらしい。それにしてもしかし……」
俺は神殿を出てすぐ、また違和感を覚えた。『はじまりの神殿』を出てすぐのエリアは「はじまりの草原」と言う名前だ。目の前の看板にそう書いてある通り。どんな所かというと、2001年頃に出たコンピュータOSのデスクトップに設定されてるデフォルトの壁紙のような、あの草原が広がっている。というかパクったんじゃないかとすら言われていた。で、問題は今、目の前に広がる草原、その風景が綺麗すぎるのだ。
しかしどうだろうか。目の前の風景は現実世界と何ら変わらず、視力が許す限り…というか視力補正スキルのおかげもあってかなり遠くまで綺麗に見渡せる。雲からその影まで、何もかもが現実世界と変わらない。生い茂る雑草の青臭い匂いも。
「ステータス以外にも設定ウインドウが出せるが、えらく項目が少ないな。ゲーム画面描写品質に関する設定項目や、マイク感度、音量、ネットワーク、コントローラ振動パックに関する設定項目などがごっそり抜けてる」
そんな画面を眺めてると、ふとまた違和感が出た。なぜ今それに気づいた? さっき「はじまりの神殿」にいる時は、神殿そのものが狭いから遠くまで風景や建物が描写されてる、なんて気にしなかった。それはまぁ分かるとしても、ゲームの設定ウインドウに関して気づいたのは今だ。
「やはりゲームではなく、トラスタの世界か、トラスタに似た世界に転生したか。しかし、ゲームスタートのチュートリアルバグ、通称『ふしぎそうな飴増量増量キャンペーン』は有効だったな。ということはあれか、草原、飛ばせるか」
『はじまりの神殿』から『はじまりの草原』を抜けると『はじまりの村』につく。『はじまりの村』で「はじまりのおつかい』をクリアして『はじまりの装備』を手に入れるとトリスタのチュートリアルは終わる。
変なところで作りが細かいというか、これを終わらせるまでに約1時間以上かかるんだが、終わらせないと自由行動ができない。しかもモンスターと戦闘があるわけでもなく、謎解きとか説明を延々と聞かされるのだ。昔、なんとか7という最初の戦闘まで一時間かかるゲームがあった気がするが、あんな感じだ。まさかのスライム一匹すらエンカウントしない。というかいない。
とりあえず、ここがトラスタにそっくりな異世界であり、俺はそこに転生している。まだ確かめないといけないことはいくつかあるが、落ち着いてそこまでは飲み込めた。むしろいきなり高レベルのドラゴンなんかと出くわすような展開でなくて良かった。
問題はこれからだ。俺は、この世界でどう生きる? 何のために生きる?
決めた。レベルを最低でも150レベルまで上げて魔法を使えるようにし、王都で家を買ってスローライフだ。いち早くその生活を手に入れるために、また日々の生活を楽するために。俺は――この世界をバグらせる。
「さて。しかしまぁどんなゲームでも
俺はなんとなく手順を思い出しながら、『はじまりの神殿』入口までくる。たしか向かって左側、門の柱と置き石の隙間へ、スライディング。うわぁ、これ失敗したら痛そうだ。というか今のレベルステータスだとHPやばいんじゃないかな…。
スッ――
◇
「お、うぉぉ!? キツいなこれ。成功したっぽいが」
「!? だ、誰だ突然!?」
俺は無事『はじまりの草原』をカットして『はじまりの村』に着いていた。ピッタリと村の入口を守る門番と背中合わせになって。ふむ、おっさんの汗臭さまでリアルだな……。
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