第2の人生は異世界でバグを楽しむ
我孫子(あびこ)
第一章
第1話 はじまりの神殿
いつも通りのログイン、なんだろう、この違和感は。
ここは、
俺がこの世界、
小さい頃からいつもこのゲームばかりしていて、学校にもまともに通わなかった俺は現実世界の生活とトラスタにいる生活ではトラスタのほうが長かったような気がする。それだからなのか、今までのログインとひどく違和感を感じた。
トラスタでは通常、前回ログアウトした場所、ダンジョン内であればダンジョン入口にログインされるのだが、いわゆる初めてのプレイヤーが誕生する「はじまりの神殿」でログインされたのだ。そしていくつかの記憶の欠如があるように思え、目の前に出たプレイヤーネーム「テイル」を認識した後、まだ確信は持てていないが、この世界はゲームではなく……
――そう、現実ではないかと、異世界転生したのではないかと。
改めてステータスを見る。VRMMORPG転生あるあるの、ステータス・ウインドウが目の前に浮かぶアレだ。
「ステータスは、上級者レベルである150レベルの者が身につける装備と予備装備一式、同じく上級者レベルで習得できるジョブとスキル、それから400万G分の所持金か。アイテムもいくつか見覚え有るのがあるな。失ったものは……ギルド身分証、拠点となるホーム、転移魔法の転移先リスト、小ゲームの認定ランクや解除済み実績トロフィー、それから思い出せないがおそらく所属していたチーム、フレンドリスト、そして……レベルと付随するステータス、あぁあと、ログアウトボタンか……」
俺はステータスを次々にスクロールしていきながら、現状をあらためて確認していく。そして再びプレイヤーネームを見てふと思うことは、
「プレイヤーネームはテイル。現実世界の名前は……思い出せない。しばらく俺はテイルとして認識するか。元々このプレイヤーネームだったのか、それすらも思い出せないな」
さらに困かくステータスをチェックする。
ジョブは第一職業(メイン)と第二職業(サブ)の両方が設定でき、プレイヤーがステータスで変更できる。教会や神殿でジョブチェンジじゃなくて楽だ。職業の内容には、例えば冒険者や魔術師というものがある。冒険者はギルドへ登録するとなることができ、人は生まれながらにして無職だ。魔術師は学園に通うことと、魔導書を読むことの両方を満たさなければジョブ登録できない。このようにジョブはいくつかの条件によって設定できるようになる。
「ジョブは、冒険者と釣り人が設定されてる。前回トラスタプレイ時はかなりジョブを得ていたはずなんだがな。どうもステータスがバグって表示されていて、選択できないみたいだ。スキルも同じような状態だが、ジョブよりかはきちんと使える状態みたいだ」
もう1つ、スキルというステータス。これは無職でも得ることができるものと、特定のジョブでなければ得られないものがある。スキルもジョブのように特定条件下、例えばアイテムの入手で得るものや、そのジョブに設定した上での戦闘経験などで取得できる。魔術師の魔法だけ、魔法スキルとして別枠が用意されていた。
「レベルは1なんだな。しかし、それにしてもMPのステータスはレベル1とは思えないほど潤沢にある。試しに魔法を使ってみるか」
『灯火』
おかしい、何も起きない。たしかにMPはあるのに。俺は全魔法属性である火水風土光闇すべてを覚えてる。もしかして……
「魔術師のジョブが開放されていない。そういうことか……。んー、まとめると『一.トラスタプレイ中にバグってしまい、各ステータスがめちゃくちゃになった』『二.ログアウトボタンが無いことを見ても、所謂異世界転生に巻き込まれた』。この辺りか。仕方ない、とりあえずチュートリアルからやり直そう。バグ技でも使ってレベルを安全マージンまで引き上げ、王都の学園に入る。それで魔術師ジョブを開放したら、異世界スローライフのスタートだ」
気を取り直して、今いるエリアは『はじまりの神殿』……何か忘れている気がする、何か。あぁ、初心者用チュートリアルアイテムか。たしかスタート地点から五本目の柱を調べると、あった! 『ふしぎそうな飴』だ。レベルが一つ上がる飴だ。いや、まだ何か忘れてるはず。確かスタート地点の階段に戻って、向かって左側ギリギリに寄って飛び降りる。
「あぁ、懐かしいなこの感覚。トラスタを初めてやって以来だな。これで五本目の柱をもう一度、あった飴」
『ふしぎそうな飴』のアイテム配置は最初から有効ではなくて、スタート地点の階段を降りきったところで判定フラグが立つ、つまり飴が入手可能アイテムとして柱に出てくる。だけどこれにはバグがあって、スタート地点の階段左端ギリギリにもフラグが残ってる。なので、ここをもう一度飛び降りる形で通ると、また飴が入手できる。
「たしかファム通っていうゲーム雑誌のインタビューに開発者が出た時、マップ作る時にミスったけど大したバグでも無いし、チュートリアルのおまけとしてそのまま残してますって言ってたな。雑なゲームだなまったく」
テイルは『ふしぎそうな飴』を噛み砕きながら『はじまりの神殿』を後にした。
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