KENZO
手塚 未和
第1話
パチンコ屋でアルバイトをしていた時のこと。
その日は朝から出勤で、9時に開店してからは
ホールには同じバイトの先輩と私2人しかスタッフはいなかったが、それでも朝は忙しくなる事がまずないので2人だけでも充分だった。
先輩はホール内をぐるぐる巡回しながらお客様の様子をインカム-遠くにいても会話ができる機械-を使って、カウンターで待機している私に逐一、「何番台のお客様はあまりお見かけしません。」とか、「ジャグラー好きのお父さん、今日は朝から調子が良いみたいです。」だとか教えてくれたので、それに対しての返事を「私もお見かけした事がありません。」とか「今日は角のジャグラーご遊戯されているんですね。」などと返していたのだけれど、その時ぼんやりホールを眺めていた私の視界に不意に飛び込んできたのだった。
『
それはカウンターの前を横切る、ご年配のお客様のトレーナーの後ろに大きく印字されていて、それを目撃した瞬間に、名前だ!自分の名前をTシャツにいれたんだ!!と。私は強く確信しました。KENZO。
このお爺様になんてピッタリな名前なんだと。雲が雲であるように。イスがイスであるように。KENZOはKENZOなのだと。何の疑いも無かった。私は今目撃した衝撃が冷めないうちに早く誰かに話したくて、あわてて、「今カウンターの前を歩かれているお客様。トレーナーに名前が入っていて素敵です。ローマ字でKENZOって。」と早口でインカムを飛ばした。先輩は最初キョトンとした顔をして、その後に笑い出してしまったので今度は私がキョトンとしていると、「あのね、KENZOは名前じゃないよ。服のブランドがKENZOっていうんだよ。」って。私はガッカリした。あんまりだと。衝撃の事実を突きつけられた後に見たKENZOはすっかり色褪せてしまい、キラキラも素敵も何も無いただの横文字の英語だった。
KENZO 手塚 未和 @mit0618
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
須川庚の日記 その3/須川 庚
★15 エッセイ・ノンフィクション 連載中 258話
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます