第3話 amazonの欲しい物リストに液タブ入れたら誰か買ってくれますか?

「なんだって……⁉」


 私は今起きている現実を飲み込めなかった。今、確かに私は電子ボードを振りかぶっていた筈だ。しかし気付けば、私は先程倒したニワトリさんの顔にめりこんだ電子ボードを手に取っていた。

 つまり、時が戻ったのだ。こんな事、信じられるだろうか。


「信じるか信じないかはあなた次第」


 虫の息の猿頭桃太郎が呟く。私がとどめを刺してやろうか。ちなみに猿頭は今、私たちの居る教室から少し離れた廊下で恐る恐るこちらを見ている。

 いや、今はそんな役立たずを気にかけている場合ではない。私は、対峙しているタニシさんを睨む。


「くくっ。驚いている様だなぁ。僕に物理攻撃は効かないぜぇ。僕はお絵かきの達人、勝負はお絵かきで無いとなぁ。そうじゃないと……」

「そうじゃないと?」

「時が戻る」


 なるほど、納得した。私がお絵かきをしなかった所為で時が戻ったらしい。

「さあ! 理解したなぁ! ならお絵かきを始めるぜエ」

 そう言ってタニシさんはものすごい勢いで絵を描き始めた。負けじと私も絵を描こうとし、気づく。画材が無い。目の前のタニシさんは、ノートに鉛筆を走らせているが、対する私の手元には何も無かった。

 タニシさんから画材を借りる事も出来るが、それは愚行だ。何故なら私の専門は油絵、彫刻、デジタル絵であり、鉛筆で絵を描くのはめっぽう苦手だからだ。

 この状況、油絵はまず描けない。彫刻については、そのへんにある机とか本棚とかロッカーとかあと人間とかを材料に使えばできるかもしれないが、そんな事してしまえば放課後呼び出しは間違いない。そしてデジタル絵であるが……ん? デジタル絵?

 私は回想する。第二話序盤、猿頭桃太郎と共に飛んだ物を。ペンだ。そして、この電子ボード。よく見たら液タブだ。


「うおおおおおおおおおおおおおおお!」


 私は一心不乱に絵を描いた。グラブルで最推しのヴァンピィちゃんを描いた。最近シャドバでリメイクされないヴァンピィちゃん。バレンタインを共に過ごしたヴァンピィちゃん。チョコフォンデュを作ってくれて、尚且つあーんまでしてくれて、「おませな子だな」とか思ってたら、「今度は眷属ぅがあーんして♡」とか言って甘えムーブかましてくるヴァンピィちゃん。はあ可愛い。


 対するタニシさんといえば、

「何⁉ ヴァンピィちゃんだと⁉ なら爆発する他有り得ん!」

 そう言って爆発した。という訳で二人抜き。


 残る相手は五人。次の相手は――

「わんわん! へあへあへあへあ……う~わん!」

 蹴辺呂助、「わんわん」の通り名を持つ、三つ首の学生であった。


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