第2話 alexandrosは「男達を庇護する者」って意味らしい。
「いいか! 大凶美幸は利用されている! あいつは東ワクワクチルドレンの一人、猛獣使いの美幸。動物好きが転じて、全人類への慈愛の精神にまで到達し、偏差値マイナス六億のこの高校に生きとし生けるクズ全てを救わんと願い、その第一歩として高校のボスになろうとしたのだ! だがそれは間違いだ! 彼女の目的は、ある男にそそのかされたからに過ぎない! その野望を止める為! 俺はこいつらと戦ってい……なんだってぇ⁉」
私の目の前で、猿頭桃太郎は飛んだ。前では無く、後ろへだ。ポケットに入ってたペンとか財布とか、あと可愛いキーホルダーとか諸共後ろへ飛んだ。何故飛んだかと言えば、A組最強のマッチョ、九条ゴリに殴られたからだ。
昼休みに戦闘開始した私は、異変に気付いた。私はつい先ほど、美幸ちゃんを守ろうと飛び出してしまい、それによって戦闘が開始された。
私たちの通うマジカルピザハッド高校では、生徒同士の争いがターン制のコマンドバトルで行われる。この事は履修要綱にも書いてあるし、戦闘については周知の事だと思う。
しかし、守ろうとした大凶美幸ちゃんと愉快な仲間たちの頭には「エネミー」とステータス表示されていた。そして何故だか、敵である筈の猿頭桃太郎には「仲間」とあった。
何故だろうか。
その答えは、今ライフがゼロになって死んだ猿頭桃太郎が説明してくれた。あ、気合の鉢巻き付けてたから生きてたらしい。とはいえもう直に死ぬだろう。
――大凶美幸は利用されている
彼は死に際にそう言った。
猿頭桃太郎は、信じるか信じないかはあなた次第、とも付け加えたが、私は信じる事にした。
何故なら、あの優しい美幸ちゃんが、こんな所に居る筈が無い。いたとしても、ほわほわしている彼女の危機管理能力から察するに、こんな危険な場所で今後も無事でいられる筈が無い。
私は、美幸ちゃんの方を見た。美幸ちゃんの生活習慣は幼稚園児の頃から変わっていないらしい。お昼を食べた後は15分睡眠。今も美幸ちゃんは、当時と相変わらずスヤスヤと寝ている。どうやら戦いには気づいていないらしい。嗚呼可愛い。守りたいこの笑顔。
――否、守るのだ。
私は、猿頭桃太郎のチャリンコのカゴに入っていた電子ボードを取り出す。
「美幸ちゃん! 今助けるからね‼」
かくして、私と猛獣たちの熾烈な戦いがはじまった。
「円ぁ! 久しぶりだなぁ!」
私は、自分の名を呼ばれた事に不意を突かれた。話しかけてきたのは、白髪の男であった。その顔は、知り合った頃と比べたら見分けのつかない程に成長していたが、まあぎりぎり見分けがついた。
「あなたは……ッ!」
白髪の男は笑う。
「そう、東ワクワク幼稚園のガキ大将、アレクサンドロス・アレクサンダーだ‼ 久しぶりだなあ‼」
アレクサンドロス・アレクサンダー。今は「ニワトリさん」の通り名で呼ばれている。その名の通り、雷の使い手であった。
雷使い。静電気を自在に操る事が出来、静電気で反応するあらゆる機械を遠隔操作する事が出来る。しかし本人は機械音痴らしい。
「円ぁ……お前の武器はなんだっけなぁ……」
「まさか……ッ!」
私は右手に持つ電子ボードに視線を向ける。
「ああ、その通りだぁ。この俺が、静電気を操ることで、その電子ボードに書いてある文字を変える事が出来るんだぜぇ……⁉」
私は電子ボードをニワトリさん目掛けてブン投げた。
ニワトリさんの顔面に直撃する。
「ばたんきゅー」
とりあえず一人抜き。私はニワトリさんの顔にめり込んだ電子ボードを持ち直し、目の前の敵たちを睨む。まだ数は多い。何せ、学年一つ分、A組からG組までの敵を全員倒さねばならぬのだから。
私の前に、二人目の敵が現れる。
「円ぁ……久しぶりだなぁ」
「その声は……⁉」
そう、読者の皆様ご察しの通り、東ワクワク幼稚園のガキ大将➁、キヨシくんである。キヨシ君はガキ大将でありながらお絵かきも上手で、ついでに二児の母であり、その多彩さから、皆には「多彩さん」と呼ばれていた。しかしこの学校ではそんな呼ばれ方は許されない。
「あの頃の僕とは違うぜぇ……今では僕は、タニシさんと呼ばれているぅ……」
キヨシくんがそう教えてくれる。タニシ……「多彩」の「タ」から取ってタニシさんだろうか。とりあえず私は右手に持った電子ボードを振りかぶって
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