第十二話 情報共有
ルナエールが訪れてから、俺達は再び竜王城へと引き換えしていた。
通路を歩きながら、俺はリドラへと頭を下げる。
「すみません、何度も何度もお邪魔させていただいてしまって……。ありがとうございます」
「この桃竜郷は竜人以外が軽々しく出歩く場ではないのでな。カナタの友人とはいえど、こうも初顔の者達がぞろぞろと歩いていれば、他の竜人の目に付けば問題事が起きるかもしれん。気を悪くはしないでくれ」
「いえ、ご配慮くださりありがとうございます」
「……まぁ、揉め事を起こさぬようにするのは、他の竜人のためでもあるのだがな。竜人には血の気の多い者もいる。ライガン辺りがそちらの御仁に突っかかれば、大変なことになるだろう」
リドラはルナエールへとちらりと目をやった。
ルナエールが顔を上げると、リドラはびくりと身体を震わせて目線を逸らした。
竜王城の《竜王の間》に集まり、現状についての確認を行うことになった。
「先にも説明させていただきましたが……カナタの元師匠です。儀式を経て死より戻った不死者の身ですから、不快な思いをさせてしまったら申し訳ございません」
ルナエールがぴったりと俺の背後に張り付いて、一同へとそう説明する。
「不死者の……だからそこで、カナタさんは少し言葉を濁していたんですね……なるほど……」
ポメラはそう言って頷いた後、改めてルナエールへと目を向けた。
「それで、あの……どうして、カナタさんの背後に……?」
「ルナエールさんはあまり人里に出たことがないんです」
「な、なるほど……?」
俺の言葉にポメラは一応は納得したらしく、小さく頷いた。
「私はあまりニンゲンと馴れ合うのが好きではないのです。地下迷宮の奥地に籠って暮らしていました。地上でのお見苦しい無作法もあるでしょうが、その点はどうか見逃していただければ幸いです」
ルナエールが冷淡な口調でそう述べる。
「カナタの師匠とは言いましたが、彼が地下迷宮で命を落とさないように面倒を見たのも、悠久を生きる不死者のふとした気紛れというものです。彼がどのように私のことを説明していたのかは知りませんがね」
ルナエールはそう言いながら、不安げに俺の服の裾を強く握り締めていた。
「あの……行動に説得力がありませんよ……?」
ポメラが恐々とそう口にする。
「で、ですから、カナタから何をどう聞いていたのかは本当に知りませんが、あまり好奇の目を向けるようなことは止めてください。その……恥ずかしいです」
喋る内にルナエールの顔に赤みが差していき、平坦だった言葉が段々と小さくなっていく。
俺の背に隠れるように、身を縮めていく。
「……大丈夫ですか、ルナエールさん? あの、もし話し難かったら、一旦別の場所で休んでもらって、俺の口から皆に伝えましょうか?」
俺はルナエールの背を撫で、声を小さくして彼女へと呼び掛ける。
「だ、大丈夫です。……でも、気を使ってくださってありがとうございます、カナタ」
ルナエールは大勢の前に立って長々と話す場もなかったため、どうにも緊張してしまっているらしい。
「なんであるか、この甘ったるい空気は。我は何を見せられておるのだ?」
ロズモンドが困惑した表情を浮かべていた。
「もしかしたらそういう関係なのかなとは、ポメラも薄っすらとは覚悟していましたけれど……。な、なんだか、勝てないなって思いました、ごめんなさい」
ポメラも顔を赤くして、なんとも言えないような表情でルナエールを見ている。
「何の話をされているのですか! べ、別にその、私とカナタは、あなた方の想像しているような関係ではありません! 話の腰を折らないでください!」
「ルナエール、もしかしてカナタのお嫁さんなの?」
フィリアがキラキラとした目でルナエールへと尋ねる。
ルナエールはフィリアへと、泣きそうな目を返した。
「あ……あまりその……からかわないでください……」
「ご、ごめんなさい……」
フィリアが真顔で謝った。
フィリアは案外、空気の読める子なのだ。
数分ほどルナエールが落ち着くのを待ってから、彼女の話が再開された。
どうにか場の空気を含めて立て直すことに成功していた。
ルナエールも先程の泣きそうな表情がすっかりと消えており、当初のクールな雰囲気を取り戻していた。
顔の赤みもどうにか落ち着ている。
「あなた方には理解できないでしょうが、悠久の時を生きる不死者に気紛れは付き物なのです。地下迷宮からカナタが出ていった後は元の生活に戻るつもりでしたが……ただ、カナタが出ていった後に、偶然外から強い魔力を感じたので、調査のために外に出ることにしました。マナラークの蜘蛛の魔王騒動は、ニンゲンのあなた達の間でもちょっとした騒ぎになっていたことでしょう」
「そのキャラを今から通せると思っておるのか……」
ロズモンドが小声でそう漏らした。
「……ですのでカナタが出ていった後に追い掛けるような形になったことも、私の行き場所がたまたまカナタと被ったことも、本当にただの偶然であったのです。いえ、結果としてカナタの存在が上位存在の目を引く形になっていたため、別に何も不自然な偶然でもないのですが」
「ルナエールさん、大丈夫です。皆その点はわかっていますから!」
「し、しっかり説明しないとわからないでしょう! 誤解があってもなんですし……! だって、端折って聞いていたら、まるで私がカナタの後を追い掛け回していたような形になるではありませんか!」
立て直していたルナエールの表情が、また崩れ始めてきていた。
平らだった声調がまた乱れている。
突かなくていいところを突いてしまった。
「主、自分デ全部説明シテルゾ」
これまで沈黙を保っていたノーブルミミックが、呆れたように口を挟む。
「ノ、ノーブル! 余計なことを言わないでください! 本当にっ、その、今は止めてください……」
「……ノーブル、今は本当に止めてあげてください」
俺も思わずルナエールに同調した。
このままでは一向に話が進まなくなってしまう。
「カナタモ嫌ダロ。アンナ熱ク慕ッテタノニ、恥ダト言ワンバカリニナカッタ事ニサレテ……」
「思うところがないわけじゃないですが……」
俺がついそう零すと、ルナエールがびくりと肩を揺らした。
「いえ、そ、その、別にカナタとそうした仲だと思われることが嫌だということではないのですが、なんだかその、自分の中でも感情の整理ができてなくて、あの……あの……! すみません、本当にあの、こういう場所になれていなくて……。い、嫌な気持ちになりましたか、カナタ?」
ルナエールがぎゅっと俺の袖を掴み、恐々と俺の顔を見上げる。
目に薄っすらと涙が浮かんでいた。
「だ、大丈夫です! 俺は絶対、ルナエールさんのことを嫌いになったりしませんから!」
ちらりとノーブルミミックを見ると、舌を出してケラケラと笑っていた。
完全にノーブルミミックに嵌められた。
「すみません……あの、少し、ルナエールさんが落ち着く時間をください!」
ルナエールの肩に手を置いて彼女を落ち着けながら、俺は皆の方へと振り返ってそう口にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます