第二十七話 ヘタレ騎士との再会
俺は屋根の上から、グリードの館の近辺を睨む。
「酷い状況だ……」
数十体程のゴーレムの群れが、王国騎士達と交戦……いや、蹂躙していた。
騎士達は向かっていくが、ゴーレムの身体にまともに傷一つ付けられず、大きな金属塊の腕に派手に殴り飛ばされていた。
逃げていく騎士もおり、既に敗北は濃色のようであった。
戦っている騎士達も、その表情からは半ば諦めが見て取れた。
「無理だ、これ以上戦っても!」
「こんなの聞いていないぞ! 国のために命を懸ける覚悟はあるが、無駄死にはごめんだ!」
「せめて住民が逃げるための時間を稼げ!」
騎士達の阿鼻叫喚が響く。
俺はゴーレムのレベルを確認して、息を呑んだ。
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種族:ミスリルゴーレム
Lv :100
HP :598/650
MP :388/400
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思っていたよりも遥かにレベルが高い。
王国騎士団がどうこうできる範疇を何重にも超えている。
A級冒険者がどうにか相手取れるレベルだ。
S級冒険者が数名いたとしても、この数相手では怪しいだろう。
「どうしてここまで……」
グリードがA級冒険者に並ぶ戦力を無尽蔵に有しているのは不自然であった。
この世界では、度々強力な個人が出現してこの世界を破滅寸前まで追い込んでおり、ナイアロトプのような上次元存在の采配によってそれがギリギリのところで保たれている……ということは知っている。
だが、権力者が簡単にこの規模のゴーレムを量産できるのであれば、いくらナイアロトプでも収拾がつかなくなるはずだ。
世界がいくつあったとしても足りはしないだろう。
また奴が、俺に標的を絞って何らかの干渉を行ったのか?
「も、もうお終いだ……。せいぜい商人上がりの一領主が、どうやってこれ程のゴーレムを……?」
そう口にするおかっぱ頭の騎士に、俺は見覚えがあった。
《赤き権杖》騒動で行動を共にした、王国騎士のベネットである。
「ゴ、ゴゴゴ、ゴァ!」
ミスリルの巨腕がベネットを襲う。
「ひいっ! パ、パパパァッ!」
ベネットが地面を這いながらゴーレムから逃れようとする。
俺は屋根を蹴ってベネットの前に滑り込み、刃でゴーレムの腕を弾いた。
「ゴアッ!」
即座にゴーレムの腹部を蹴り飛ばす。
ゴーレムの身体がバラバラになって飛んでいった。
「な、なんだあいつは」
「ポロロックの冒険者か?」
王国騎士達がざわつく。
「お、お前は、カナタッ!」
ベネットが顔色を輝かせ、俺の足許へと這い寄って来て、俺の手を掴んだ。
「僕の危機に駆けつけて来てくれたんだな!」
「いえ、別にそういうわけでは……」
「皆、希望を捨てるな! このカナタは未来のS級冒険者で……この僕の戦友であり親友だ!」
ベネットが騎士達へと声を掛ける。
「S級冒険者が助太刀に来てくれただって……!」
「それならば、まだ希望はあるはずだ!」
騎士達が口々にそう叫ぶ。
「あの、別に、あなたの親友では……」
「カ、カナタ、後ろから二体来ているぞ!」
ベネットが顔を蒼くして、俺の背後へ刃を向ける。
俺は振り返り様に、二体のゴーレムを纏めて叩き斬った。
宙高く跳ね上がったゴーレムの上半身が、地面に深々と突き刺さった。
「……まるでスライムみたいに、簡単に斬るんだな。お前のレベル、一体いくつあるんだ?」
ベネットがそうっと、砕けたゴーレムの下半身を刃で突つき、その硬さを確かめていた。
早くフィリアを捜したかったが、この場を放置しているわけにもいかなさそうだ。
「数が多いので、少しばかり時間が掛かりそうですね。手早く片付けましょう」
俺は剣を下ろし、ゴーレム群団を睨む。
ゴーレム達は動きを止め、全員が俺の方を向いた。
どうやら俺を、集団で掛からなければならない敵として認識したようだった。
「他の騎士の方々は、遠くへ行ったゴーレムや、住民の避難誘導をお願いします。この場は俺一人で引き受けます」
「し、しかし、王国騎士として、この数相手を、一冒険者に任せるわけには……!」
怪我を負っている騎士が、血だらけの身体を持ち上げるように起こし、剣を構える。
「いいから行け! そんな状態で残られても足手纏いなんだよ! 僕達は面子が大事だが……中身の伴わない虚像にしがみつくことほど滑稽なものはない。何のための面子なのか忘れるな。騎士の本分は、攻めることじゃない、守ることだ! ……と、パパが言っていた!」
ベネットが剣を構えてそう叫ぶ。
「ここは僕とカナタに任せろ!」
「……別に、あなたにも残ってもらわなくていいんですが」
「また肩を並べて戦えるときが来るとはな! 行くぞカナタ!」
「……はい」
俺は腑に落ちないものを感じながらも、剣を構え直した。
地面を蹴り、ゴーレム群団へと向かう。
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