第二十八話 最後の試練
第二の試練が終わった後、ライガンの屋敷で一日休ませてもらうこととなった。
翌日、朝食が終わった後、どこかやつれた様子のライガンから、第二の試練の評価を言い渡された。
「……一応、聖竜の方々に今回の件について報告して確認したが、貴様らのやったことは正式に不問にするということになった。我ら竜人の寛大な心に感謝するがよい」
ライガンは言うなり、はあ、と重い溜め息を漏らす。
「ありがとうございます……」
俺達はライガンへと頭を下げた。
本当に心底安堵した。
揉め事に発展すればラムエルとの約束が果たせなくなる、というのもあるが、それ以上に賠償問題になったときが怖かった。
ポメラもほっとした表情をしていた。
フィリアも思ったより大事になってしまったことを深く反省しているらしく、しょんぼりとした表情を浮かべている。
「《竜眼水晶》の色も基準と照らし合わせたが……三人共、千点ということになった。喜ぶがいい、貴様は二千点で、そっちの女共は二人共千五百点である」
「ほ、本当!? やったぁ! なる! フィリア、王竜になる!」
フィリアが顔色を輝かせてそう口にしたが、ライガンから生暖かい視線を向けられ、さすがに空気を読んだらしく俯いて黙った。
「あの……今更で申し訳ないのですが、やっぱり下手に王竜の点数取ったらまずいですよね? もう二千点ということにして、竜王にだけ会わさせてもらえませんか?」
竜王の宝物は、ナイアロトプと戦う手助けになるはずだ。
王竜の称号を得なければもらい受けることができないらしいので、できることならば逃したくはない。
ただ、そうすると竜人との間に余計な隔たりができそうで怖い。
ひとまず聖竜の称号を得て面会して、どうにか竜王と交渉しよう。
「な、ならんわい! 貴様、我らの神聖なる試練を馬鹿にしておるのか!」
「……でも、正直もう、消化試合感が。第三の試練は、第一の試練、第二の試練とそこまで大きく異なるものなのですか?」
俺が問うと、ライガンが沈黙した。
どうやら第三の試練も、第一、第二とそこまで大きな違いがあるものではないらしい。
第二の試練こそは俺達がしくじるはずだと信じていたライガンも、第三の試練にはもう何も期待していないようであった。
「わかりました……あの、俺達、百点くらいに抑えるので……」
「……神聖な試練である。手を抜くことは許さん。我も同行して確認する。もし手を抜いたと判断すれば、その場で何十回でも何百回でもやり直させてやる」
ライガンがムスッとした表情でそう口にする。
「そ、そう拗ねなくても……」
「拗ねておるわけではないわ!」
ライガンが声を荒げながら机を叩く。
わかっていたことではあるが……この人、面倒臭い。
外の者に高得点は取ってほしくないが、手を抜かれるのはそれ以上に嫌らしい。
「わかりました……。あの、今から出向いてもらっていいですか? できるだけ早く、竜王に面会したいんです」
「わかったわい……今から向かうとするか。桃竜郷のやや僻地にある、付いてくるがいい。もう、さっさと千点でも二千点でも取って終わらせてくれ……」
ライガンが力なくそう口にする。
俺達が来てから、随分と気苦労を掛けてしまったらしい。
そのことについては本気で申し訳なく思う。
俺達はライガンに案内されて長い石段を昇った先に、真っ赤な鳥居のような門があった。
「着いたか。この竜門の先が、竜門寺……第三の試練を行う場所である」
「竜門寺……」
俺はライガンが口にした言葉を繰り返した。
竜人達の着ている服は着物に近い。
建物が開放的な寝殿造だったことからも薄っすらと察していたのだが、どうやら竜人の文化は地球の日本にやや近いらしい。
竜門を越えた先には、大小様々のドラゴンの像が、百体以上も並べられていた。
石の残骸のようなものも散らばっている。
小さいものは全長一メートル程度だが、大きいものは全長二十メートル近くある。
そして第一の試練同様、額に【五十】だとか、【五百】だとかの数字が刻まれている。
一番巨大な像は、全長四十メートルはありそうであった。
他の像から距離を置いたところで胡坐を掻くように座っている。
額には【千】と記されている。
やや離れたところに、二階建ての大きな寺があった。
あれが竜門寺なのだろう。
ドラゴンを模した瓦が屋根についていた。
「これは《竜魔像》といって、魔力を付与することで起動できるゴーレムである。ここまで言えばわかるであろうが、自分が倒せそうな《竜魔像》を起動し、無事に打ち壊せば、額の点数がそのまま第三の試練での自身の点数になるのだ」
ライガンが、像の一つに触れながらそう口にする。
なるほど、第一の試練では純粋な膂力を、第二の試練では探索能力を、第三の試練では総合的な戦闘能力を試すらしい。
……ただ、第一の試練と第二の試練で点数を取れている人間が、第三の試練で低スコアを出すとは思えない。
ライガンもそれがわかっているから落ち込んでいるのだろう。
ライガンも言っていたが、さっさと終わらせることにしよう。
正直、結果は見えている。
今更こんなところで苦戦するとは思えない。
「よお……会いたかったぜ、モヤシ野郎。ここで張ってりゃ、いずれは来るよなあ」
聞き覚えのある声に、俺は顔を向ける。
ミツルが、殺気を込めた目で俺を睨んでいた。
背後には、おどおどとした表情のヨルナが立っている。
しゅ、執念深い……。
しつこいにも程がある。
「また貴方ですか……」
「そう邪険にするんじゃねぇよ、ツレねぇなあ。前回は、歯切れの悪い形で中断になっちまったからよぉ。今度こそ、白黒はっきりさせようじゃねえか」
「あ、貴方、二度も石の下敷きになったのに、まだ懲りていないんですか……?」
ポメラが呆れを通り越して、若干憐れむような表情をミツルへと向ける。
ミツルは下唇を噛み、大きく右手を振るった。
「二度も虚仮にされたから言ってるんだろうがあ! テメェら、馬鹿にしくさりやがって! 第一、懲りるも何も、前回も前々回も、別にテメェにやられたわけじゃねえだろうが!」
「俺のせいじゃなくて自分のせいだってわかっているのなら、俺に目を付ける理由はないんじゃ……」
「黙りやがれ! テメェにやられたわけじゃねぇが、テメェのせいでああなったんだよ!」
百歩譲って第二の試練の《巨竜の顎》での件は非を認めるが、第一の試練の《竜頭岩》は絶対に俺達は関係ないはずだと断言できる。
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