第十話 《魔銀の杖》
魔術師を見失った俺は、ポメラとフィリアの二人へと合流した。
フィリアはまだフラフラしているようで、ポメラへと身体を預ける様に凭れ掛かっていた。
「どうでしたか、カナタさん?」
ポメラが俺へと尋ねる。
俺は首を振った。
「見失ったみたいです。ただ、恐らく俺より上の相手だったので、戦いにならなくて良かったです」
俺の言葉に、ポメラがさっと蒼褪める。
「ええっ!? カッ、カナタさんより上なんですか!? そっ、そんな人間が、本当に存在し得るのですか?」
ポメラが大袈裟に大声で叫ぶ。
目を閉じていたフィリアが、その声にびくっと身体を起こしていた。
……ポメラは一体俺をなんだと思っているのだろうか?
「俺より上の人はたくさんいますよ。この世界の人間のレベルは結構極端ですからね。ルナエールさんからも、いつ危機に遭うかわからないので警戒しておくようにとよく言われていました」
一般冒険者はだいたいレベル100より下程度のようだったが、フィリアやさっきの魔術師のように、俺と同等かそれ以上のレベルを持っている人間は確かに存在する。
特に、俺のような転移者はそういった危ない人間に目を付けられやすいのだという話だった。
そういった連中ともある程度は渡り合えるように《双心法》なんかも身に着けてはいるわけだが、交戦にならないに越したことはない。
「い、いくらなんでも……そんな……ううん……」
ポメラが首を捻りながら、言葉に言い淀んでいた。
「彼女の敵意の有無はわかりませんでしたが……一応、警戒はしておいた方がいいかもしれません。俺も、情報を集めておこうと思います」
フィリアが過剰反応で攻撃に出てしまっている。
これがきっかけとなって後々の対立に繋がる、なんてことも考えられない話ではない。
誤解を解いておくべきだろう。
相手の情報次第によっては、これ以上目を付けられない内にこの魔法都市から逃げてしまった方がいいかもしれない。
どちらにせよ、あれほどに腕の立つ魔術師であれば、何らかの形で有名になっているはずだ。
情報を得ることはさほど難しくはないだろう。
……それに、どうしても俺はあの魔術師がルナエールに似ていたと思えてならないのだ。
俺がそう思いたいだけなのかもしれないが、確かめておきたい。
論理的に考えれば彼女がルナエールでないことは明白なのだが、どうしても引っかかってしまう。
「素材集めの方は、その……もう、諦めますか?」
「ううん……正直、これ以上この魔法都市で探してもあまり意味がない気はするんですよね……」
《ウィッチリング》でさえD級アイテムが限界だったのだ。
これ以上のアイテムを得るためには、少数の高レベル冒険者とのコネクションを手に入れるか、直接魔境に出向いて探しに向かうしかないかもしれない。
そのとき、後ろを通りかかった人達の会話が耳へと入った。
「また新しい錬金魔法が開拓されたらしいな。《
「だとしても、んな上流の話、私達なんかには関係ないだろ……」
「おいおい、夢と向上意欲のない奴だな」
その談笑に、俺は足を止めた。
話をしていた彼らへと振り返り、歩み寄った。
「すいません! あの、《
「なんだ? この都市に来て、《
男の方が、ハンと冷たく笑った。
細身だが、背の高い人物だった。
魔法都市マナラークの人間は、この都市に無知な人間に対してやや冷たい傾向にあるように思う。
あまり彼らから話は聞きだせないかもしれない。
「いいか? 《
男は楽し気に話してくれた。
てっきり教えてくれない流れではないかと思ったが、案外いい人だった。
「そんなところがあるんですね……」
「兄ちゃん、疎すぎるぜそれは。ちょっと勉強不足だなぁ、《
「すいません、世間知らずなもので……」
俺は男へと苦笑いを返す。
「……お前もロクに縁はないだろうに、よくぞそこまで自慢げに話せるな」
横に並んでいた背の低い女が、溜め息交じりにそう零した。
男がムッと表情を歪めて彼女を睨む。
魔法都市マナラーク最高峰の錬金術師団、《
どうやら他のマナラークの錬金術師団とは一線を画する団体のようだ。
単なる店と違い、研究団体直属の販売所であれば、高ランクのアイテムも期待できるかもしれない。
……もっとも、あったとしても今の俺の手持ちのゴールドでは厳しいだろうが……ポーションの素材になるアイテムの有無や、値段の確認としては悪くない。
「あの……その販売所って、どこにありますか?」
「……いや、あそこは」
女の方が、呆れたふうに口を挟もうとする。
だが、男がそれを前に出て遮った。
「仕方ねえなぁ……俺が、近くのところまで案内してやろう」
「本当ですか? でしたら、ぜひお願いします。通りが多くて、少し迷ってしまって……」
「おうよ、任せておけ」
男は愛想よく答えてくれた。
「おい、グレッド! 趣味が悪いぞ」
女の方が、男へとそう声を掛けた。
男はにやりと笑い、彼女に後ろ手を振った。
「おいおい、俺は何も嘘なんて吐いていないだろ? こいつが行きたがっているから親切に連れて行ってやろうってだけだ。お前は、先に向かってろ」
女は呆れた顔で男を眺めていたが、俺と目が合うと顔を逸らし、別の方へと歩いて行ってしまった。
「…………?」
なんだろうか、今の意味深な会話は。
「そっちの二人は、お前の連れか?」
男はポメラとフィリアへと目をやった。
ポメラが不安げに俺の様子を眺めていたので、どうやら知人らしいと気が付いたようだった。
「そうです。ただ、あの……」
「ま、とっとと二人を拾って行こうぜ。俺も、暇だってわけじゃあないからさ」
「は、はい」
俺は男の言葉に頭を下げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます