第十六話 次の目標

 俺はルナエールと共に歩いて、再び小屋へと向かっていた。

 今後について……主に、ルナエール同伴での《地獄の穴コキュートス》の脱出について、彼女と話し合わなければならない。


 俺は歩きながら、《ステータスチェック》で自身のステータスを確認する。


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『カナタ・カンバラ』

種族:ニンゲン

Lv :136

HP :547/653

MP :274/585

攻撃力:190+300

防御力:109+100

魔法力:163+400

素早さ:150


特性スキル:

《ロークロア言語[Lv:--]》

通常スキル:

《ステータスチェック[Lv:--]》《剣術:[Lv:2/10]》《錬金術[Lv:2/10]》

《炎魔法[Lv:8/10]》《水魔法[Lv:4/10]》《土魔法[Lv:4/10]》

《風魔法[Lv:5/10]》《雷魔法[Lv:2/10]》《氷魔法[Lv:2/10]》

《白魔法[Lv:2/10]》《死霊魔法[Lv:1/10]》《結界魔法[Lv:1/10]》

《時空魔法[Lv:2/10]》《召喚魔法[Lv:1/10]》

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 おお……《土の暴王サンドタイラント》の土ドラゴン・レベル150を単騎で倒しきったため、一気に14ほどレベルが上がっている。


 ……しかし、こうしてみると、スキルも随分と数が増えたものだ。

 魔法のレベル上限だが、《炎魔法[Lv:8/10]》となっているが、どうやらこれは別にレベル最大になったからといってルナエールと同格の魔法を行使できる、というわけではないらしい。


 魔法は規模によって階級分けがなされており、それは階位で示される。

 基本的に、スキルレベルと同じ程度の階位の魔法までしか使うことはできないようになっている。

 俺ならば、せいぜいが第八階位までが限界ということだ。


 第九階位も使えないことはないが、安定しないし発動までに時間も掛かる上、効率的に魔力を回すことができずに威力も大して出なかったりする。

 第十階位より上は超位魔法という通常の魔法とは明確に分けられたものになるらしく、その域まで到達できればスキル名の方が変化するようだ。


 その辺りまで来ると魔法の奥義と称される域になり、生涯を魔法に捧げた老魔術師が死に際に到達できるようなレベルになるらしい。

 《魔導王の探究》の効果があるとはいえ、俺には縁はなさそうだ。


 ……因みにルナエールお得意の《治癒的逆行レトグレーデ》は時空魔法の第二十二階位、かつて俺に見せた対象の魔物を直接消し去る魔法|存在抹消《ニール》は第二十四階位に当たる。

 改めて彼女の桁外れさがよくわかる。


 つい先日、ゴーレムにやられた軽い打撲を《治癒的逆行レトグレーデ》で治してもらったことがある。

 絆創膏みたいなノリで魔法の奥義を使わないで欲しい。


 思い返してくすりと笑うと同時に……寂しさが込み上げて来た。

 もう、ルナエールと一緒にいられる時間もそう長くないのだ。


「師匠……その、俺が《地獄の穴コキュートス》を出るのは、いつにしましょう」


 俺はちらりとルナエールの様子を窺ってみた。

 できれば明日……いや、明後日がいい。

 ……今日中というのは、あまりに寂しいから避けたいところだ。

 しかし、この辺りはルナエールの考えが俺にはよくわからないので、どういった返答が来るのかは想像もできない。


 ルナエールから反応がない。

 俺が声を掛けたのに気が付いていないようだ。


「師匠? ルナエール師匠?」


 俺が名前を呼ぶと、ハッとした様に俺を振り返る。


「……少し、考えごとをしていました。えっと……何の話でしたっけ」


「いえ、目標レベルに達したので、ここを出るのはいつにしようかなと……」


「え、えっと……それは、その……」


 ルナエールが口ごもり、そのまま黙ってしまった。


「師匠?」


 ルナエールの返事が聞きたくて、つい急かしたようになってしまった。

 ルナエールはびくりと身体を震わせて過剰反応を示し、落ち着かないように目を動かす。


「……えっと……その、ま、まだまだ、レベルが足りない……かもしれませんね」


「あれ!?」


 全く予想だにしていない答えが返って来た。


「あ、あの、レベル100になったら、安全にここを出られるんですよね?」


 そういう話だったはずだ。

 そもそもレベル100に達したのは昨日なのだが、それから『レベル相応の戦闘技術が足りないかもしれません』というルナエールの提案があり、今回の卒業試験が実施されることになったのだ。


 土ドラゴンとの戦いで、何かヘマをやらかしてしまったのだろうか。

 ルナエールは落ち着かない表情のまま、特に何も答えてくれない。


「師匠、そろそろ俺、強くなったんじゃ……」


「ダメです! えっと、ダンジョンの外はっ、本当に危ないところですから!」


 ルナエールは顔を赤くし、腕をあたふたと動かしながら、そう言った。


「こ、ここより危険なんですか!?」


 そ、そんな馬鹿な、ここは世界最悪のダンジョンじゃあなかったのか。

 ナイアロトプは確かにそう言っていたはずだ。


「ど、どっちが危険というと、平均的にはここの方が危険だとは思いますが……中には恐ろしく強い人もいますし、別世界から来たということで目をつけられたりもするかもしれません、いえ、されます!」


「そ、そういうものなんですか……?」


 てっきり、レベル2000クラスの化け物はここにしかいないと思っていた。

 俺の認識が甘かったのか……。


「こ、ここ程でなくても、レベル1000くらいの魔物ならどこにでもいます……いたかな……いえ、います! 身分もなく、安全を保障される立場にないあなたは、きっと長くは持たないでしょう。も、もう少しここで修業した方がいいです!」


 そ、そう言われればそんな気がして来た……。

 俺は外について全く知らないのに、随分と甘い想定を今までしてきてしまっていたように思う。

 ここの魔物がヤバイという情報だけ教えられてきたが、どれだけ外の魔物と差があるのかは全く知らずに来ていた。

 何せ、この世界に来て最初からこの《地獄の穴コキュートス》に飛ばされてきたのだ。


 ルナエールは俺の顔をじっと見ながら、俺のローブの袖を控えめに掴んでいた。


「そ、外に出てからは知ったことではないと思っていましたが、私にも多少は情というものがありますからね。もう少しだけ、面倒を見てあげてもいいですよ」

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