第十二話 座学
「レベル上げはこの辺りで止めにしましょうか。そろそろ疲れてきているようですし」
「そ、そうしてもらえると助かるかもしれません……」
ルナエールから訓練終了の提案が出た時、俺はゴーレムの残骸に囲まれて仰向けになっていた。
……結局、ゴーレム軍団を用いての戦闘訓練はゴーレムレベル20に続き、レベル30まで相手取ることになった。
俺のレベルは32へと上がっていた。
「《
俺はまたルナエールの魔法で身体を回復してもらっていた。
訓練の途中にゴーレムに殴られて死にかけるトラブルもあったが、ルナエールの《
ただ身体は疲労含めてどうとでもなるものの、精神の方の限界が近づいてきている気がする。
やっぱり途中で口出しして、今日の訓練はストップしてもらった方が良かったかもしれない……。
「頑張りましたね。剣の振り方、後半の方ではそれなりにマシになっていましたよ。顔つきも身体も少し逞しくなった気がします」
魔法での治癒が終わってから、ルナエールがそう褒めてくれた。
限界が近かったが、それだけで疲れが吹き飛ぶ思いだった。
「師匠、ありがとうございます!」
「……その呼び方は、少し慣れませんね。まあ、どう呼ぼうともあなたの自由ですが」
ルナエールはそう言いながら、顔をやや赤らめ、何もないふうを装う様にわざとらしく咳払いをしていた。
師匠、可愛い。
この顔を見ただけでまだ頑張れそうな気がする。
実際、凄く達成感はあった。
努力の成果が目に見えるのは嬉しいし、レベルが上がったためか身体も凄く動かしやすくなった気がする。
今まで何となく生きて来たので、こんなふうに頑張って誰かに褒められたことはあまりなかったかもしれない。
そうしてルナエールと共に小屋に戻った俺は……次に、魔導書に囲まれることになっていた。
「魔法とは、簡単に説明すれば魔力を用いて世界を改変する能力です。頭の中で魔法陣を構築し、必要な魔力を与えて起動する、とイメージしてもらうと捉えやすいかもしれません」
また宝箱の上に座り、分厚い魔導書を開きながら彼女より魔法についての説明を受けていた。
……て、てっきり、もう今日は休むものだと思い込んでいた。
俺の精神は持つだろうか?
い、いや、どうとでもなるはずだ、覚悟を決めろ、俺。
何をヘタれたことを言っている。
ルナエールの善意に甘えて、だらだらと何日も泊まり込むわけにはいかない。
必要最低限の日数で、最低限のレベルと戦闘技術を身に着ける。
それが今の俺がやらなければいけないことだ。
「自分の魔力性質やその場の状況によって必要な魔法陣の細部は異なりますから、丸暗記ではいけません。かといって全てを理解して自在に操ることは私にもできません。魔法陣を構成する魔術式のパターンから覚えていくのがいいでしょう」
「な、なるほど……」
ルナエールは魔導書の内容を、俺にもわかりやすい言葉に置き換えて、補完しつつ話してくれた。
俺はノートに、必死に彼女の言葉を書き纏めていく。
首飾り《魔導王の探究》の効能のお陰か、魔法の説明がすっと頭に入って来てくれているような気がする。
「本来は聞いてすぐ修得できるようなものではありませんが……自分で言うのもなんですが、私は世界でも指折りの魔術講師だと思います。大船に乗った気持ちでいてください」
妙に控えめな言動の目立つルナエールだが、これに関してはやや得意気に言っていた。
魔法に関しては随分と思い入れがあるようだ。
平常に比べて少しだけ早口な気もする。
聞き流さないように気をつけないと……。
「では、単純な魔術式ごとの意味を教えていきますね。この魔術式と、この魔術式と、この魔術式は……」
ルナエールが宙に手を掲げると、次々に魔術式が浮かべられていく。
「す、すいません、もうちょっとテンポ落としてください!」
俺の椅子になっている宝箱が、僅かに口の部分を開閉させて息を漏らしていた。
こ、こいつ、面白がっているな……!
講座は三時間ぶっ続けで行われた。
酷使したせいか、腕の筋肉が痛い。
というか、頭が熱い。
知恵熱は大人でも出るらしいということを初めて知った。
多分、《魔導王の探究》の魔法理解向上効果のせいで、本来の俺の脳のスペックを超越しているせいだろう。
「うう……」
俺は机の上に顔を伏せていた。
ちょ、ちょっと休憩が必要かもしれない。
「大丈夫ですか? 《
ルナエールが尋ねて来る。
……《
「か、身体もそうですが、メンタル的に限界かもしれません……ごめんなさい……」
きょ、今日はもう、さすがに駄目かもしれない。
色々なことがありすぎた。
もうちょっと身体、というか心を慣らしながら、訓練と座学の時間を流していきたい。
「メンタルですね。気分の良くなる薬や、集中力を上げる薬が確か、ありましたね」
ルナエールはそう言って、《
駄目だ、今ここで殺されるかもしれない。
心がやられる。
「私がこの《
く、薬漬けにされる……!
……ルナエールは、魔法のことになるとちょっとブレーキが効かなくなるかもしれない。
座学が終わった後、ルナエールが食事の準備のために畑へと向かったため、俺は一人部屋の中で机に突っ伏していた。
ど、どうにかまだ生きている……。
あ、明日からもこれか……そうか……頑張らないと……!
「生キテルカ?」
「ど、どうにか……」
俺は半ば無意識に宝箱との意思疎通が成立していた。
「……《ステータスチェック》」
自分の能力値を確認してみる。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
『カナタ・カンバラ』
種族:ニンゲン
Lv :32
HP :154/154
MP :138/138
攻撃力:45+300
防御力:26
魔法力:38+300
素早さ:35
特性スキル:
《ロークロア言語[Lv:--]》
通常スキル:
《ステータスチェック[Lv:--]》《炎魔法[Lv:2/10]》《水魔法[Lv:2/10]》
《土魔法[Lv:2/10]》《風魔法[Lv:2/10]》
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
い、一日で随分と強くなったのではないだろうか。
このペースなら、一週間くらいでルナエールの言っていた目標であるレベル100に到達できるかもしれない。
そのくらいあれば、彼女同伴であれば安全にここを抜けられるかもしれないという話だった。
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