第十一話 ゴーレム・レベリング
俺は《愚者の魔法剣》を握りしめ、ルナエールについて小屋の外へと出た。
「
ルナエールが腕を掲げる。
魔法陣が浮かび上がり、周辺の土が集まって首のない大男を象った。
「ゴ、ゴ……オゴォォォォ!」
土人形が図太い両腕を掲げ、咆哮を上げた。
「これがゴーレムです」
「師匠が部屋を片付けるときに使っていた土人形と同じ奴ですね」
「見ていたのですか……?」
ルナエールがややムッとした顔で俺を睨む。
俺は咄嗟に口を押さえた。
い、いけない……ルナエールが拠点の掃除をしてくれていたのを俺が覗き見してしまったのは、お互いのために彼女には黙っておくつもりだったのだ。
「す、少し、その、扉の隙間から見えただけです。本当にちらっと見えただけなんで、あれ、もしかして片付けではなかったんですか?」
ルナエールは安堵した様に息を吐き、冷徹な無表情顔へと戻る。
「実験のために出していたものを退けていただけですよ。別にあなたのためではなく、ただ私が邪魔だっただけです」
「で、ですよね! わかっています!」
……大急ぎでゴーレムを使って雑巾掛けしてくれているところまで見てしまったのだが、このことは黙っておこう。
気を遣わせ過ぎていて、こっちが気を遣ってしまうレベルであった。
俺はこの人に少しでも受けた恩を返すことができるのだろうか……?
「ともかく、強さは調整しているので、あなたでも簡単に倒すことができるはずです」
ルナエールがゴーレムの頭部を指で示す。
額にはレベル10と刻まれていた。
おお、わかりやすい……。
一応、《ステータスチェック》で能力を確認しておこう。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
種族:ゴーレム
Lv :10
HP :34/34
MP :24/24
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
ここの化け物とは比べ物にならないくらい大人しい。
ステータスを確認して安堵したが、しかし冷静に考えると今の俺よりも遥かに強い相手には違いないのだ。
剣のお陰で斬れば倒せるのかもしれないが、相手の速さや膂力は俺よりも遥かに上のはずだ。
「
ルナレールがまた魔法を唱える。
魔法陣から土の縄が何本も伸びて、ゴーレムの両手足を拘束した。
「オ、オゴ……!」
ゴーレムが身を捩るが、拘束は解けない。
「さ、どうぞ」
「あ……はい、ありがとうございます」
こ、こんな簡単でいいのか……?
俺は土の縄に拘束されているゴーレムに恐る恐ると近付き、横に剣を振るった。
「ゴォッ!」
斬った部位の土が抉れ、軽々とゴーレムが後方へと飛んでいく。
壁に衝突した勢いでゴーレムが爆散した。
俺は剣に振られるように身体が動き、そのまま反動で地面の上にへたり込んでいた。
と、とんでもない威力……。
さすが、ナイアロトプ達が転移者に特典として渡した力だ。
数値を見ると、ここの化け物達に比べれば低かったのでやや心許ない印象があったのだが、この光景を見るに十分すぎる威力を持っているように思える。
……しかし、振れることは振れるが、一度振っただけで肩が痛くなった。
俺は立ち上がり、衣服についた土を祓う。
身体の内側から熱くなる感覚があった。
《ステータスチェック》で自身を見てみたところ、レベル3へと上がっていた。
や、やった、強くなっている……!
ゴーレムのレベルを思うと上昇率が低い気がするが、ルナエールが拘束で補助をしているので、その分俺自身の貢献が低くカウントされているのかもしれない。
「師匠、レベルが上がったみたいです!」
俺がルナエールの方を見ると、彼女は周囲に無数の魔法陣を浮かべていた。
「《
ルナエールの周囲に、二十体前後のゴーレムが現れる。
全員額にレベル10と刻まれていた。
「どんどん行きましょう。剣に振り回されているので、次はもっと自分の体幹をまっすぐ残すイメージで振ってみてください」
俺は自身の腕へと目を落とした。
お、俺の腕は、持つだろうか……?
い、いや、せっかくルナエールが俺のために出してくれているのだ。
甘えたことは言っていられない……!
……一時間程掛けて、どうにか全てのゴーレムを倒しきることができた。
一体一体ルナエールの《
俺のレベルは10まで上がっていた。
重ねるごとに腕や身体への反動が小さくなっていくのを感じてはいたが、疲労は着実と腕に溜まっていっていた。
う、腕が震える。
俺はつい剣を落としてしまい、拾おうと屈んだときにそのまま倒れてしまった。
「大丈夫ですか? そんなに疲れていたとは……。今の私は疲れにくい体質ですし、身体の頑丈さも全く違うので、加減があまりわからないかもしれません。疲れた時は言ってください」
ルナエールが俺へと歩み寄ってくる。
「す、すいません……」
きょ、今日はここまでかもしれない。
身体が怠く、酷く眠い。
肉体的にもそうだが、精神的にも疲労が来ている気がする。
ルナエールは倒れている俺の傍で屈み、顔を近づけて来た。
「……触れても大丈夫でしょうか? 嫌なら、嫌と言ってくださいね?」
「……? 勿論、問題ありませんよ」
なぜ、そんな遠慮がちなのだろう?
もしかしたら、自身がリッチであることに引け目があるのだろうか?
ルナエールは俺の言葉聞いてから安堵した様に息を吐き、小さく唾を呑み込む。
それからそうっと慎重に俺の腕へと手を伸ばし、恐々と細い指で、肌の感触を確かめるかのように優しく撫でていた。
こ、こそばゆい……。
彼女が幻想的な程に美人なこともあって、自分の顔が熱くなるのを感じる。
真っ赤になっていないだろうか?
「す、すいません、そんな意識したふうに触られると、こう、緊張するといいますか……」
ルナエールははっとした様に目を開いて俺から手を除けて、首を左右にぶんぶんと振った。
「た、確かに、腕が凄く張っています。このままでは、今日はもうトレーニングはできないでしょう」
ルナエールがやや上擦った声で言った。
……この上ないくらいに効率的にレベル上げを進めているはずだが、思ったよりも地道な作業になりそうだ。
いや、本当は一日にレベルが10上がるのは凄いことなのだろうが……レベル1000越えの化け物達に絡まれた後では、どうしても地味な上がり幅に思えてしまう。
「
ルナエールが唱える。
白い魔法陣が展開され、俺の身体を光が包んでいった。
全身を包み込んでいき、身体から痛みが消え去った。
もう四度目になる、おなじみの魔法だ。
因果の一部を操って逆行させて対象を治癒する、とんでも魔法なのだという。
こ、これで身体が動かせる。
「ありがとうございま……」
「《
ルナエールの周囲に、二十体前後のゴーレムが現れる。
今度は額にレベル20と刻まれていた。
「さて、続けましょうか」
俺は目を瞬かせた。
あ、あれ、これで一旦レベル上げは終わりにする感じじゃあなかったのか……?
確かに身体は治ったが、正直精神的な疲労がかなりきつい。
ふと脳裏に、ルナエールの先程の言葉が浮かび上がった。
『そんなに疲れていたとは……。今の私は疲れにくい体質ですし、身体の頑丈さも全く違うので、加減があまりわからないかもしれません。疲れた時は言ってください』
あの時の言葉の意味を痛感した。
こ、この人……高レベルのリッチだから、低レベルで生身の人間の感覚があまりよくわかっていないんだ。
……ちょっと言おうかと思ったが、しかし、こうも準備をしてもらっては断り辛い。
それに、ルナエールの時間と手間を大きく俺のために割いてもらっているのだ。
ちょっと剣を振るって中断、なんてしていれば目標のレベルまでいつ到達できるかわかったものではない。
「……もしかして、今日はもう駄目そうですか?」
「い、いえ、そんなことはないです! 身体が無事なら俺はいくらでも動けます!」
ルナエールの言葉に俺はそう返した。
こ、根性でやり切ってみせる!
身体は無事なんだ、きっとどうにでもなるはずだ。
……負荷の掛かりにくい剣の振り方は覚えてきたし、ステータスも上がってはいたのだが、レベル20のゴーレムはレベル10のゴーレムとは硬度が全く異なっており、レベル10のときより倍はしんどかった。
終わった頃には身体全身の筋肉がパンパンになっていた。
……そうしてどうにかやり切った後、次はレベル30のゴーレムに囲まれることになっていた。
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