どうしようもない私に天使が降りてきた②
休日というものは意識しないで過ごしているとあっという間に過ぎてしまうものだ。現に今、私の休日は特に語るべき事柄もないまま終わろうとしている。
「奏撫、眠いなら寝てもいいんだよ?」
「んん、やぁ」
そう言いながら私の膝で丸くなってる彼女の頭をゆっくり撫でる。名前の文字に含まれているからなのか、彼女は頭を撫でるのも撫でられるのも好きだ。朝は私の頭を撫でてたらしい。寝てたから気づかなかったけど。
「気持ちいい?」
「んー」
出会ってから四年。付き合ってからは三年。告白したのは私なのに、それを忘れてしまうくらいには奏撫は私のことを好きになってくれてる、と思う。
と思う、なのは奏撫は私にあまり本音を語らないから。年上だからとか、性格的にねとか、いろいろ言ってた。
付き合い始めたばかりの頃は信頼されてないのかなとか、悩んだりもしたな。
「ほら、寝るならベッド行こ?」
「ゆめも来る?」
「うーん、まだちょっと早いかなぁ」
壁の時計は二十二時を過ぎたあたりを指している。明日仕事だとしても寝るにはまだ早いんだよね。見たい番組もあるし。
「じゃあおきてる」
「ここで寝られても私じゃ運べないんだよ~」
百五十センチくらいしかない私では十センチ以上背の高い奏撫を運ぶのは無理がある。一回やったんだけど次の日筋肉痛が辛くて辛くて。
「じゃあねよ?」
「うぅ……」
先に惚れた弱みってあると思う。いくら奏撫が私のことを好きになろうと、私の方が絶対に彼女のことが好きなのだ。それだけは譲れない。
だから、強く求められると折れてしまう。好きだから。
「わかった、わかったからベッド行くよ?」
「えへへ、やったぁ」
眠気が勝ってる時のことを奏撫はよく覚えてないらしい。じゃなければこんなかわいいことは絶対に言わない。私としては普段の奏撫も、ふにゃふにゃでかわいい奏撫もどっちも好きなのであまり関係ないと言えばないけれど。
奏撫は恥ずかしがりなので、こんなことを自分がしてると知れば今後見せてくれなくなるかもしれない。それは嫌だなぁ。
二人で布団に入っても、特に何かする訳でもない。奏撫はすぐ寝ちゃったし、私はまだ眠くないから寝れないし。
三年。酸いも甘いも全部ある程度経験して、沢山笑って沢山泣いて、それでも今こうして一緒にいる。それはきっと運命なんてものなんかよりよっぽど強い何かで結ばれてて、これからもずっと今みたいな日々が続いていくんだって毎日寝るときは思ってる。
でも、きっとそんなことは絶対ない。いつか、いつか奏撫は気づいちゃうんだってそれとおんなじくらいには思ってる。
私も、彼女も、女。その二人が付き合っていること、それは普通ではない。私自身が普通でないことにはとうに慣れた。けど、彼女はそうじゃないだろう。この三年間はそこに触れることなく過ごすことができた。
でも、ずっととはいかないだろう。私にも彼女にも親がいて、世間体があって。
年末とか、お盆とか、奏撫が実家に帰るたびに動悸がする。今度こそ帰ってこないんじゃないか。今回こそは。
そんなこと奏撫には言えないし、気づかない限り言うつもりもない。だって、だって言ってしまったら、言った時が最後になる気がするから。
私が好きになったから、好きになってしまったからこそ怖い。
こんな感情、一生気づかれませんように。
私とあなたにかけられた魔法。いつか、どこかで解けてなくなっってしまう弱い魔法。
魔法が解けないことを今日も祈りながら、明日もあなたが私に微笑んでくれることを祈りながら、眠ろうか。
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