牛鬼
司波和人
牛鬼
「牛鬼」という言葉を聞いたことがあるだろうか。
牛鬼(うしおに)とは、西日本に伝わる妖怪のことで、主に海岸に現れ、浜辺を歩く人間を襲うとされている。伝承は、地方ごとに様々あるが、特に有名な伝承は、愛媛県宇和島市の牛鬼伝説なのだそうだ。それにあやかって、1988年の選抜高校野球大会に出場した宇和島東の打線の事を「牛鬼打線」と言われたりするなど、愛媛県の南予地方は、牛鬼と深いかかわりがある。
なぜ、こんな話をしているのかというと、僕 ―菊池秀平― の通う中学校で、「牛鬼巡業」という祭りをするからである。僕が住む地域では、牛鬼は、家の悪魔祓いの役をして下さっているということらしく、地方祭が、近くなると、僕たち中学生と先生が、牛鬼を担いで、掛け声をかけながら、校区を巡回していく。牛鬼の全長が、3mで、首の高さを含めると、高さは3~4mと小柄である。そして、寄付をして下さった近家の前で、牛鬼希望するご家庭に関しては、掛け声とともに、牛鬼を上下に揺らし、締めは、玄関に牛鬼の頭を突っ込んで、また別の場所に練り歩いていく。
「なんかめんどくさいよなぁ。すぐ疲れるし。」
という一言を僕に言ったのは、部活仲間である宇都宮幸一(うつのみや こういち)である。実は、こいつとは、腐れ縁というやつで、幼稚園からの知り合いである。
「まあ、ずっと牛鬼担いどるからなぁ。仕方ないやろ。」
僕たちが住む校区は、他の校区に比べて、人が少ないため、この牛鬼をぎりぎり担ぐことができる人数しかいないため、休憩ができない。それが、地味にきつく、いくら体力があっても、朝からずっとは、きつい。
だからこそ、宇都宮が言った一言は、同意するしかない。
片手で、額の汗を拭った宇都宮は、ひと呼吸して、言った。
「まあ、俺らが小さいときは、毎年これを楽しみにしてたから、光栄なことなのは、変わりないけどな。」
「確かに。いずれは、やりたいとは、思ったけど、こんなにも大変だとは、思わなかった。」
小さなころから、見続けた光景。このフレーズは、目まぐるしく変わる世の中には、なくてはならないものだと思う。この光景が、次の世代に受け継がれていくことができたらいいのにと、柄にないことを思うのは、疲れてきたからだろうか。でも、今僕たちが担いでいる牛鬼を、近所の小さな子たちが、目をキラキラしながら見ている光景は、なんとも言い難い高揚感である。僕達も、小さな子に、夢を与えることができているだろうか。そんな不安もあるが、今だけは、気にならないくらい最高の祭りになっている。
そうこうしているうちに、家の玄関に、頭を突っ込むようである。この時は、緊張する瞬間である。ぶつけたら、弁償しなければいけないようなことだからだ。しかし、うちの校区なら、笑って許してくれそうな気がするが。もうあと少しで、「牛鬼巡業」が終わる。まだ、僕たちは、中学校にいるから、これをやるが、その時も誇りを持ってやろうと思う。
牛鬼 司波和人 @shiba1110
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