生徒会室での攻防

 ― ある日の放課後。生徒会室 ―


「はぁ~~~」


 生徒会室に入ったソウル・バンドメンバー四人を待っていたのは、二学期から生徒会会長になった二年女子、《神沢珠美かみさわたまみ》の重いため息であった。


 長い黒髪に整った顔立ちは、その美貌にふさわしい知性、そしてスレンダーながら女性の部分がはっきり現れている体は、男子のみならず女子の眼も釘付けにし、三年が引退した二学期の生徒会長選挙において、圧倒的大差で当選したのである。


 そして、リーダー前田の幼なじみでもあった。


「どした珠美? ため息は体に毒だぞ」

「ちょっと蒼流そうる……いや前田君! 学校ではなれなれしく名前で呼ばないで!」

「別にいいじゃねぇか。珠美は珠美なんだし、俺は珠美以外の女子を名前で呼ぶ気はないぞ」

「!」

 天然な不意打ちをくらわされた神沢は、息を飲み頬を赤らめた。


(まったく……リーダーは罪な男だぜ)

(はいはいごちそうさまごちそうさま)

と前田以外のソウル・バンドメンバー、そして神沢以外の生徒会役員は心の中でニヤけていた。


 ちなみに生徒会役員はみんな女子で、成績も学年上位である。

 しかし、副会長は誰も立候補せず空席のままだった。

『やる気のある人なら、たとえ一年生でもかまいません』

と神沢が全校集会で呼びかけても、今だ音沙汰なしである。


「……ゴホン、何であなたたちはこうもいろいろと問題をおこすのよ? 運動部の応援のみならず、文化部の交流にまで乗り込むなんて!」

「へっへっ! 俺たちの熱い魂は誰にも止められないぜ!」

「「「いやっほぉ~!」」」

 前田の咆吼に後ろの三人が雄叫びを上げた。


「……わかりました。とりあえず用件だけを伝えます。我が生徒会で協議を重ねた結果、

『今度の文化祭では、ソウル・バンド同好会の演目を削除します!』」  


「「「ええええぇぇぇ!」」」


「横暴だ珠美! 会長になってから人が変わったぜ! 昔のかわいいお前はどこいったんだよ!?」


 “かわいい”の言葉に再び神沢の頬が染まるが、すぐさま生徒会会長の顔に戻った。


「だ・だ・し!」

「な、なんだよ?」

「学校内外でのライブ活動の禁止。なおかつ、今までの苦情のペナルティーとして、文化祭の準備を手伝ってくれれば、その限りではないわ」


「ちょっ! ライブするなってか!? 魂を叫ぶなってか!? 俺たちに死ねって言うのかよ!?」


「練習はしてもいいわよ。あくまで人前でライブをしなければいいだけ。そうねぇ、練習場所としては真夜中の埋立地とか、下水管の中とかどうかしら?」


 クールビューティーから紡ぎ出された意外なジョークに、他の役員は思わず笑いをこらえる。


「わかった。”会長”。少し考えさせてくれ」

「えっ?」

 役職で呼ぶ前田に、神沢は一瞬ひるんだ。


「みんないくぞ」

「「「ウッス」」」

「あ……」

”バタン!”

 神沢が声を掛ける前に、四人は部屋を出て行ってしまった。


(少し、きつかったかな? かわいくないなぁ……私)

 髪をいじりながら思いにふける……前に、“バーン!”と扉が開き、四人が会長机の前で土下座をする。


『生徒会会長さまぁ~! おとなしくしてますぅ~! なんでもしま~す! どうかお慈悲をぉ~!』


 その姿に今度は他の生徒会役員が口に手を当て息を飲んだ。


「わ、わかったから! せ、せめて服を着てぇ!」


 四人はパンツ一枚になって土下座したのであった。


 ― 文化祭まであと一週間 生徒会室 ―


「彼らの様子はどう?」

 もはや定期報告となったソウル・バンド同好会の様子を、庶務の野波のなみが神沢に報告する。


「近隣の高校、中学校、幼小学校、町内会に至るまで、何も苦情は寄せられておりません。今日も文化祭の設営を手伝っております」


「うちら女子ばっかりだからさぁ~、男手がいると助かるのよね~」

 会計の桜山さくらやまの言葉に、書記の中村が

「どうせならあいつら、生徒会役員になればいいのに。そうすれば……」

 神沢の視線に中村は慌てて口を閉じた。


(ま、これで先生方からの心証が良くなればいいけど……)

 窓の外を眺めながら”フッ!”と苦笑したが……。

(蒼流……アンタなんで……あんな馬鹿なことを……)

 神沢自身、前田がなぜソウル・バンドに夢中になっているのか、未だに理解できなかったのであった。


「各クラスの様子を見てきます。何かあれば私の携帯へお願い」

「「「はい」」」

 ドアが閉められると、三人は一斉にため息を吐いた。


 会計の桜山は

「だけどさぁ~結局の所、”アイツ”が副会長になれば、生徒会権限でやりたい放題なのに、なんでならないんだろうね?」

 役員の誰もが、能力はともかく神沢に一番ふさわしい、ある男子が副会長になるべきだと考えていた。


 書記の中村は

「バンドメンバーの男子どもの成績はわたしたちとタメ張るんだし、もちっとうまく立ち回れないのかな~?」


 庶務の野波は

「まぁ~バンドメンバーの“誰かさん”に関しては生徒会うちの“誰かさん”のおかげでなんとか上位をキープしているけどね」

 とお茶の肴にして


「「「ハハハハハハッ!」」」

 三人の笑い声がかしましく響いたのであった。


 結局、三人が導き出した結論は

『時の流れと当事者同士にまかせましょう』

であった。 

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