レンタル炎上はいつだってナナメ上

ちびまるフォイ

レンタル炎上24時

「……ということで、炎上させてもらいたいのです」


レンタル炎上ショップに訪れたのは営業さんだった。


「うちのような弱小企業が作ったスマホなど

 どうしても大手に負けてしまいます。かといって

 イケメン俳優使っての印象のいいCMを出すこともできない」


「それでうちに来たんですね」


「はい! ここはレンタル炎上すると聞いたもので!」


「かしこまりました。それでは指定日にえんじょういたします」


契約を取り付けた。

情報化社会の現代じゃ商品価値よりも話題性。


炎上したとしても見向きもされないよりはずっといい。

それに悪口は広まるのが早いので拡散もされやすい。


「バカ高いお金をかけてプロモーションしなくてすむな!」


これで話題性が上がれば自分の功績として大いに評価されるだろう。

炎上指定日当日、SNSを監視していたがそれらしいものはなかった。


「……おっかしいな。今日の0時から炎上するって話なのに。

 うちのスマホの話題なんてトレンドにもあがりゃしない」


騙された、と凹みながら会社に向かう途中でサイレンが鳴り響く。


「近寄らないでください! 危ないから近寄らないで!!」


消防隊員が火事に群がるやじうまを必死に抑えている。


「あの、なにがあったんですか?」


「この先のスマホ工場で火事があったんですよ。

 幸い、従業員は誰も居なかったみたいですが……」


「この先の工場って……うそぉ!?」


「あ、ちょっと!! 危ないですよ!!」


制止を振り切り火事の現場へ。

すでに消火活動が終わっていたが、残されたのはまっ黒焦げの残骸。


「誰も死ななくて本当に良かった」


「良かないですよ!! 今日発表のスマホが台無しじゃないですか!

 これじゃ明日から生活できませんよ! 間接的に死んじゃいます!!」


「そんなおおげさな……」

「こんなのひどすぎる!!」


泣き崩れたとき、あのレンタル炎上に思い立った。

絶望は怒りへと代わる。


「おい! レンタル炎上屋!! なんてことをしてくれたんだ!!」


「おや、ご依頼通りにしたはずですが」


「リアルな炎上させてどうする!! おかげでスマホは全部ぱあだ!

 俺が求めていたのは、ネット上での炎上だ!!」


「ネットの炎上のほうがタチが悪いですよ。収まることがないですから。

 忘れた頃に、いつまでも過去の炎上ネタを持ち出されることになります」


「たとえそうだとしても! 一夜の王にはなりたかったんだよーー!!!」


「なってるじゃないですか」

「え?」


レンタル炎上屋の見せた画面には今回の火事について触れられていた。


せっかく発売するというその日に大火事にあってしまった悲劇は、

またたく間に拡散されて同情のコメントや義援金さえ集まり始めていた。


「すごい……こんなにたくさんの人に注目されるなんて……」


「プロモーションは大成功ですね」


「まさか……コレが狙いだったのか?」


「ご依頼どおり、えんじょうさせましたよ」


工場が治ってからは話題性も手伝って新作スマホは大いに売れた。

寄付的な意味からスマホを買ってくれる人も多くいた。


それからしばらくして、再びスマホの売上は下がっていった。

社長は社員を集めて緊急集会を開いた。


「社員の諸君、現在わが社は極めて苦しい状況に来ている。スマホが売れんのだ」


社員は顔をそむけた。

原因は現場がよくわかっていた。


弱小企業の作るスマホなんてどうしても性能的に見劣りしてしまう。

目のこえたお客さんは有名ブランドのものを買うだろう。


「このままではわが社は立ち行かなくなる。なんとかできないものか……」


「はい社長。私にお任せください」


「君は平社員の平野くんじゃないか」


「私にとっておきの秘策があるのです」


レンタル炎上のことは誰にも教えていなかった。

自分以外の誰かに手柄を盗られてたまるか。


「……ということで、また炎上しちゃってください!」


「かしこまりました」


「でも、2回目ともなるとヤラセっぽくなるんで

 前よりももっと完全完璧な炎上にしてください」


「完全完璧、ですね」

「はい。パーフェクト炎上でよろしくです」


約束を取り付けた後、工場に残っていたスマホは一旦避難させた。

大炎上後に販売するとしても作り直す手間は避けておきたい。


倉庫に眠らせておいて、炎上が収まったころに販売して

また同情してくれたお客さんに買ってもらうという作戦。


「さぁ、どんとこい!!」


炎上指定日。

はやくに目が覚めた俺はSNSとニュースを見ながらわくわくしていた。


「さーーて、どうなっているかなぁ」


待てど暮らせど、それらしい情報はない。

スマホの話題はもちろん、火事の話題すらなかった。


「おいおいおい! どうなってる!」


慌てて工場に向かったがボヤひとつ上がっていない。


「ぜんぜん燃えてねぇじゃん!!」


とはいえ、ここから自分で燃やすのはただの放火犯。

社長に「任せてください」などと言ってしまった手前、引くに引けない。


「ど、どうしよう……」


布団の中でぶるぶる震えながら至った最終結論は「辞表」だった。


社長の期待に添えなかったことを謝り、この度の責任を取ってやめる旨を書いたが

短くまとめると「マジごめん。会社に居づらいのでやめます」となる。


辞表を防弾チョッキのようにしのばせて会社に向かう。

案の定、会社につくなり社長からの呼び出しがあった。


脂汗をかきながら社長室に入る。


「し、失礼します……。社長、お話というのは……」


辞表と土下座への予備動作を始める。


「君は、今回のこと、どう思っているのかね」


「いや! あのっ、それは! あばばばばば……」


土下座しようとその場でジャンプしたときだった。

ブラインドから振り返った社長の顔は満面の笑顔だった。


「君はよくやったよ! おかげでうちのスマホは激売れだ!!」


「……え?」


「いやぁ、君に任せて本当に良かった。君のプロモーションのおかげだよ!


「ど、どういたしまして……?」


まるでキツネに騙されたような気持ちだった。

社長は何度も俺の肩を叩くがまるで実感が湧いてこない。


「あの……私は何をしたんでしょう……?」


「ハハハ。どうした? 嬉しさのあまり記憶喪失にでもなったのかい。

 これを見てごらん」


社長は話題をさらった大人気の新作スマホを見せた。


「君が作った"丸いスマホ"のおかげでうちは大成功だよ。

 まったく、円状なんてよく考えたね!」

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