ドラゴン探しの祭り
ちかえ
ドラゴン探しの祭り
人々がわいわいと騒ぐ中を男と少年が歩いていました。二人は仲は良さそうなのですが、兄弟には見えません。
「これがドラゴン探しのお祭りなの?」
「そうだぞ。すごいだろう」
「うん。人がいっぱい! それにいい匂い!」
少年は元気な声で素直に感想を言います。隣を歩いている青年はそれを聞いて涼やかな声で楽しそうに笑いました。
「ドラゴン探しかぁ。ねえ! ドラゴンが見つかったらどうするの?」
「今年一年はいいことがいっぱい起きるんだそうだ」
「ふぅん?」
少年にはよくわかりません。でも何だか心がわくわくしています。
「ボクにもドラゴン見つけられるかな?」
ぽつりとつぶやくと青年はまた笑いました。
「お前なら簡単に見つけられるんじゃないか?」
「そうだね」
少年はお祭りに参加するのは初めてです。なので、見るもの全てが楽しくキラキラして見えました。
ドラゴン探しも面白そうですが、今は初めての『お祭り』を楽しみたい気分でいっぱいす。
お金は青年が十分に持っています。なので何でも食べられるし、『ゲーム』というものもいっぱい出来るのです。それは青年がここに来る前に丁寧に説明してくれました。
とりあえず、少年は先ほどから気になっていたお店に歩いていきました。
「これ何?」
「これは串に刺して焼いた野菜と牛の肉だ。食べるか?」
「うん!」
即答すると、青年はその串焼きを山盛り買ってくれました。少年はそれを夢中で食べます。特に牛の肉はとろけるほど美味しいのです。嬉しくて息を吐きたくなりますが、ガマンしました。それはよくないと青年に教えられたからです。
「あなたたちたくさん食べるのね」
知らない少女が話しかけてきました。少年は嬉しそうにうなずきます。
「美味しいの?」
「美味しいよ」
食べる手をとめずに、少年は即答しました。串を一本差し出すと、少女は、少しだけはにかんでからそれを受け取りました。
「ねえ、ボール投げしてみない?」
「ボール投げ?」
串焼きを食べ終わると、少女が誘ってきました。聞き慣れない遊びに少年は首をかしげます。
「知らないの? おもちゃにボールを投げて、ボールが当たったらそのおもちゃがもらえるのよ。とっても楽しいのよ。あたしうさちゃんのぬいぐるみが欲しいの」
「ふぅん」
よく分かりませんがそういう遊びがあるようです。青年が許可をくれたので少年もボール投げに参加する事にしました。
とりあえず気になったものにボールを投げてみます。しかし、少年の力が少し強かったためか、後ろのテントの布に強くぶつかってしまいました。テントが揺れたのを見て、青年が慌ててそれを支えます。
「危ないぞ」
「ごめんなさい」
青年に叱られて少年はしゅんと落ち込んでしまいました。
次は少し弱く投げてみます。今度は上手くいきました。ですが、当たったのは少女が欲しいと言っていた『うさちゃんのぬいぐるみ』でした。
少女が悲しそうな顔をしているのを見て、少年も悲しくなりました。なので、『うさちゃんのぬいぐるみ』を少女に差し出します。
「これあげる」
「でもあたし当ててないもん」
「でも欲しいんでしょ」
そう言うと、少女はうなずきます。なので、少年は少女の胸に『うさちゃんのぬいぐるみ』を押し付けました。
「……ありがと」
少女は少しだけ戸惑ったような表情をしましたが、すぐに幸せそうな笑顔で『うさちゃんのぬいぐるみ』を抱きしめました。
その後も美味しい食べ物や楽しい遊びは、どれも少年の心を嬉しくさせました。
次は何をしようかとウキウキ歩いていると、大人達の困ったような声が聞こえました。それは小さな声でしたが、少年には、はっきりと聞こえました。
「薪もうちょっとくべないとな」
「誰だよ。管理怠ったやつ」
「祭りの最中にたき火が消えるなんて事になったら火のドラゴンが怒るぞ」
その言葉に少年はそっと首をかしげました。そんな事で火のドラゴンが怒るとは思えないのです。
でも、もしかしたら短気なドラゴンもいるのかもしれません。そんなドラゴンにこの様子を見られたら大変です。
「ちょっとあっち行って来る」
青年に一言断ってから、少年は人ごみに隠れました。そしてたき火に向かってふっ、と軽く息を吐き掛けました。
遠くからですが、上手くいったようで火は強く燃え始めます。それでも、強くはなりすぎずいい感じです。
これで大人の火のドラゴンが人間を怒らないですむと思うと、少年の心は満足でいっぱいになりました。
「ねえ」
さて、青年の所に戻ろうと踵を返そうとした時、服の袖が引っぱられます。振り向くと先ほどまで遊んでいた少女が強い眼差しで少年を見ていました。
「今のはなに?」
「ボク何もしてないよ」
誤摩化してみましたが、少女の視線は厳しいままです。そのまま、人気のない方に連れていかれてしまいました。
「さっき火を強くしたの?」
確信を突かれて少年は戸惑います。でも、相手は今まで楽しく遊んだお友達です。嘘はつきたくありません。
「うん……」
「あなたドラゴンなの?」
少年は小さくうなずきました。そうして元の姿に戻ります。
少女は目の前に現れた小さなドラゴンに目をぱちくりさせました。でもすぐに嬉しそうに微笑みます。
「これでキミは幸せになれるかな?」
「あたしは幸せよ。うさちゃんもくれたし、あなたいいドラゴンね。今日は最高のお祭りだわ! ドラゴンさん、あなたに会ったんですもの!」
そう言われると心の中がくすぐったくなります。
でも、すぐに寂しさが襲ってきました。
「でもボク見つかっちゃったから来年からこのお祭り来れないかな?」
もう少女には自分がドラゴンである事を知られてしまっているのです。と、いう事は人間に変身しても無駄なのです。
「また来てよ。そしたらあたしがまた見つけてあげる」
少女のきっぱりした言葉にドラゴンの少年はぽかんと口を開けました。
「そしたら毎年、あたしにとって最高のお祭りになるわ!」
きっぱり言われると照れくさくなってしまいます。でもずっと照れているわけにも行きません。なので、少女の方をまっすぐ見ます。
「だったらボクにとっても毎年最高のお祭りになるね!」
そう言うと、女の子は花のような笑みを見せてくれました。そのままお互いに微笑み合います。
その二人の様子を青年——水のドラゴン——が微笑ましそうに見つめていたのでした。
ドラゴン探しの祭り ちかえ @ChikaeK
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