その日は最高のひな祭りでした

鋼鉄の羽蛍

その思い出は暖かに

 二月も末に差し掛かった頃。

 私はママと今日も病院へとお見舞いに行きます。

 そこは都立のそこそこ大きな病院……病室で退屈な日々を過ごしていたのは――


「沙奈華……今日はお元気?」


「あーー!お姉ちゃんっ!」


「しーー。病院は静かにね?」


「ごめんなさーい。」


 個室ベッドで身体を起き上がらせて私達を待っていたのは、私のたった一人の妹 沙奈華です。もう一年近くも病室で寝たきりなんです。

 そんな妹と会うため今日は病院へと足を運んだのですが。


「ここに果物を置いておくから、好きな時に食べなさいね?ちゃんと切り分けてあげたから。」


「ママ、ありがとー。」


 ここに通えるのはパパとママの仕事の都合が付く土曜日の夜だけ。

 でもパパは残念ながら、今日お仕事残業が入ったらしくて私達だけなのです。


 そして毎週末のお約束である沙奈華のための絵本朗読。いつも病室で退屈している妹のため、私がこうやって絵本を読んで聞かせてあげるのです。


「さざねお姉ちゃん、今日はどんな本読んでくれるの?さなかずっと待ってたんだよ?」


「今日はね~~、じゃ~~ん!〈異世界にてんせいしちゃったおひなさま〉だよ~~!」


「てんせい?な~~にそれ。」


 たまたまママと行った本屋で見つけた、へんてこりんな題名の絵本でしたけど……妹が楽しんでくれるならと手にしていました。

 そもそも沙奈華の誕生日は3月3日のひな祭りな事もあり、毎年おひな様を家で飾っていたのですが――去年の3月に妹はすでにここへ入院していたのです。

 だからその時のひな祭りは何にもして上げられなかったんです。


 すると妹の表情が陰ったのを見た私はどうしたのかと質問します。


「さなかはおひな様が見たい……。前はおひな様見れなかった。」


「そっか。やっぱり本物のおひな様がいいよね……。」


 結果私は持ち寄った絵本で逆に妹の元気を奪ってしまったのです。



□■■□



 その日の帰り道。

 徒歩で病院から岐路についた私は、ママに耳打ちされました。


「ねぇ、沙座音。今度沙奈華にサプライズしちゃいましょう?」


「サプライズ?どんな事するの?」


「それはね――」


 その時とっても不敵な笑みを零したママは、それからサプライズのために奔走してくれ……相談に乗ってくれたパパも喜んで協力してくれたのです。


 決してヒマではないはずの両親と私が、駆け回って準備したサプライズ。

 それは3月3日のひな祭りであり、沙奈華の誕生日に決行されたのです!



□■■□



 その日は平日にも拘わらず、忙しい中パパとママが沙奈華のために病院へと訪れます。

 当然いつも私達が揃うのは週末なため、妹はまだ詳細も何も知りません。


「さ~な~か!お元気してた?」


「あっ、お姉ちゃん!――あれ?今日はパパとママも来てくれたの?やったーー!」


「当然だろ?今日は何の日か覚えてるかい、沙奈華。」


「う~~んとね。さなかのお誕生日で……ひな祭り。」


「あらあら、元気がないわね沙奈華。そんなあなたに誕生日プレゼントよ。」


「えっ!?さなかにっ!?何をくれるの!?」


 唐突な私達の襲来と、サプライズな発言で病室である事も忘れてはしゃぐ妹。そんな中私を見やるパパとママに頷いて合図した私は――

 スマートフォンの動画再生を操作したのです。


 その動画……映っていたのは――


『『さなかちゃん!お誕生日おめでとー!おひな様がお祝いしてくれてるよーー!』』


「これ……すごーい!クラスのお友達がおひな様とおだいり様になってるーー!すごい、すごーーいっ!」


 その時の沙奈華の笑顔は、見た事も無いほどに輝いていたのです。


「よかったわね、沙座音。これでこのひな祭りは最高のお祭りになったじゃない。」


「うん!ありがとう、パパ、ママ!」


「ありがとーお姉ちゃん!」




 満面の笑みな私達家族は、奔走し……妹のクラスの協力の元――最高のひな祭りをすごしたのでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

その日は最高のひな祭りでした 鋼鉄の羽蛍 @3869927

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ