高い塔の昔話

水上雪之丞

第1話

 昔話してやろうか。

 なに、もういいって? いやいや今度する話は新しい話だから。そんなに邪険にするなよ。今度はスカッとするみんな笑顔になるいい話だから。ほんとほんと。人類史上『最高の』お祭りについての話だ。興味あるだろ? 

 実はもうみんな知ってる話なんだがそのお話の本当のお話といったところだ。ちょっと興味があるだろ? 何? 飯ができるまで? 十分十分すぐ終わるからまぁ聞いていきなって。

 昔々だ、みんなでどでかい塔を建てようって話になってな? みんなが集まってたんだよ。それでもって石の代わりにレンガを、粘土の代わりにアスファルトを使って……。ちょい待ち、ちょい待ち、ここまではみんな知ってる話だよなうんうん。こっからだから。この後俺がなんか傲慢な奴らを懲らしめるために塔は壊すは言葉はぐちゃぐちゃにするわってとんでもないやつみたいな扱われ方してるけど本当のところは違ってんの。あれ本当にやめてほしいよな、めっちゃ性格悪い奴みたいになってるもん俺。

 まずあいつらは最初から言葉なんてぐちゃぐちゃだったわけ、今ほどではないにしても方言がきついとこなんて、もうよその奴らからしたら何言ってんのか訳分かんないわけ。だから北の奴が南の奴と会話しようとするとその間の奴が通訳みたいに入ってお互い話し合ってたの。んで、何で塔作ってたかっていうとあの時の塔って冷戦の時の宇宙開発みたいなもんでさ、どこが一番高い塔を建てるのかっていうのが技術力の誇示だったの。高ければ高いほど強い、みたいなさ、一目置かれるわけ。だからみんな塔を建ててたのよ。

 そうしたら頭のいいやつがいるわけで、隣で塔立ててるやつらに声かけるわけ、一緒になって一つの塔立てたらこの二つの集団でほかの奴らを圧倒できるぞって。そうなるとその集団はほかの奴らより高い塔が立つわけで傍から見ててもそれに気づくのよ。そうなると、何であいつらこんな高い塔が立てられるんだって、様子見に行ったら協力して建ててるわけ。こりゃまずいってことで様子見てたやつらはそいつら同士で協力し合ってさ、そしたらそいつらも周りの奴らより塔が高くなるでしょ? そしたらまた、周りがあいつら何してんだってことになって協力してってさ。

 そうなるとこれと同じことが何回も起こるわけね。そうするとどうなるかって、これが傑作なんだけどそもそもがほかの奴らに勝つために作ってたもんなのにほかの奴らがいなくなってんのよ。みんなで協力することになってったからさ。ここからみんなで心を一つに! 麗しい人類愛! ってなったらお涙頂戴だったんだけどそうはならないのがエテ公どものエテ公たる所以なわけよ。こっからが面白いわけ。あいつらそれぞれの集団が別の方言でやってたわけでさ、言葉も違えば文化も違うわけ。そりゃそうだわな。日常生きるために必要なものも違うから何に注目するかも変わるし、そうなると度量衡も違うわけよ。2㎏分の石持って来いって北の奴が言ってんのにそれ聞いた南の奴は2ポンド分持ってくるようなことが起こるわけ。おまけに基礎作りから装飾までそれぞれ基準がめちゃくちゃなもんだから、そらもうしっちゃかめっちゃかお祭り騒ぎなわけよ。それでも我慢して作ってさ、本当にこれまでの建物の中でも一番高い建物建ててるわけよ。あほだからそれしかやることがないわけ。ある日俺が様子見にいってちょっとふざけて基礎石一個無理やり抜いてやったのよ。そしたら誰がやったってことになってさ、やれお前らのくそみたいな土台じゃ不安定だろうとかそんなくそみたいな装飾に材料使うなだのでな、殴り合い始めやがってさ、ほんと笑いが止まんないわけよ。しょうもない土くれの上でしょうもないやつらがあほみたいな顔してど、怒鳴りあってるわけ。は、腹が痛くてさ、顔も上げてられないわけ、そしたらさ何が起こったと思うよ? 基礎石一個無理やり抜いたからなんか、と、塔が……くっく、き、きしみ始めてあいつら勝手に崩れておっちんじってるの。ほ、ほんと腹が引きちぎれるかt……、え? やっぱりお前最悪じゃねぇかって?

 またまたひどい言いようだね君は。

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高い塔の昔話 水上雪之丞 @zento

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