ある村のひな祭り

福舞 新

第1話・ひな祭り

 雛祭りの起源はとある村のしきたりでした


 その仕来りとは


 三月三日になると無作為に選ばれた男女を無理矢理結婚させ、お祝いをし、そしてその二人を生贄としてその村を守っている龍神様に捧げる


 というものでした

 何年も、何十年もその仕来りが続いていたため、それが間違っていると言う人もいません




 その村に、ある男女がいました

 その男女はまだ幼く、今で言う高校生にも満たない年齢

 ですが二人はそのしきたりに強く反対していました

「無理矢理結婚させるのは良くない!」

「なんで死なないといけないの?」

 そう言って強く反発をしており、しだいに他の人たちもこのしきたりに疑問を抱き反対をし始めました


 そこで困ったのは村長やこの村で力を持っている人たち

「今までのしきたりを全部台無しにしようとしている」

「あいつらは何てやつらだ」

 そこで村長たちはあることを決めました



「そうだ、あの『』を結婚させれば良いのだ」



 男女は無理矢理結婚をさせられ、今年の生贄になることが決まりました

 当然、二人はなにも知らされておらず、それを知ったのは前日になってからです

 二人は何度も反発しました

 村長の家に直談判しにも行きました


 ですが結果は変わることはありませんでした





 当日、二人は石で出来たひな壇状の建物の頂上で座っていました

 そこから見える村の景色はとても賑やかでお祭りムードです


 二人は愛し合っていない訳では無いのです

 結婚もしたかったのです


 ですが年齢のせいで結婚はすることができなかった

 でも、何故か今は「村のしきたりだから」という理由で年齢など関係なく結婚させられ、剰え、生け贄として死ぬ


 二人はそんな現実に悲しみました

 ですが、その時間が始まるまでの間、二人は今までの思い出を語り合いました


 共に過ごした学校での生活、話したこと、恋人になった日、二人だけで山に行った日

 沢山のことを語りつくしました。

 ですが、時が止まることなどはありませんでした


 夜、周りにかがり火も焚かれ、いよいよ生け贄として捧げられる時になりました


 二人と共に反対をしていた人たちも、友人たちも、そして両親も、

 今では村長たちと一緒に龍神様を呼ぶために楽器を使って音楽を鳴らし、祈り続けています

 彼らは村長たちに買われたのです

 金を、土地を、食料を与えられ、彼らが欲しかったものを与えられ


 裏切ったのです


 二人を裏切ったのです

 でも二人は彼らを恨みませんでした


 彼らにはこんな目にあってほしくなかったから


 しだいに空が曇りだし、小雨が降り始めました。

 上空では雷がゴロゴロと鳴り響いている


 二人は手を繋ぎました

 怖いから?

 死にたくないから?

 それもあるでしょう。でも今は、違いました


 

 本当なら逃げる機会もあった

 でもそこで逃げ出したら必ず捕まり、今度こそ一緒にはいられない

 そんな未来が確実だったから


 二人は逃げなかった

 運命に抗わなかった


 そのとき、空が光りました

 そして


 ――落ちました






 まるで昼にでもなったかのような猛烈な光が辺りを照らしました。

 二人は光で照らされた村を見て目を閉じました

「あぁ死ぬんだな」

「そうね」

「……今までありがとう」

「うん」

「次こそは……」

「……一緒に」



 瞬間、光が周りを焼きました











 二人が目を覚ますと、そこはまだ雛壇の上でした

 空は既に青く輝いており、雲一つ無い晴天


 二人が立ち上がって村を見渡しました

 そこにはもう「村」なんてありませんでした


 焼け焦げた大地、燃えている家々、そして焦げ臭い肉の臭い


 二人は、何が起きたのか分からず慌てふためいていると上空から何やら神々しい、細長いものが降りてきました。


「龍神様……⁉」



 龍神は宙に浮いたまま二人を見て、二人が気を失っていた間に起きたことを話しました。


 この村はしきたりのルールを破った


 二人は故意的に選ばれ、生贄という名目で殺人を計画し、このしきたりをけがした

 だから、この村を滅ぼした




 二人は龍神に尋ねました


「じゃあ、何故私たちを生かしたのですか?」


 龍神は答えました


 二人にはが見えた。と


 今の状況をせいと見ず、今を変えようと奮闘していた

 正しき行いか、しき行いかは分からぬが、その行動には未来が見えた


 そう二人に話しました。


 そうして龍神は

 この地に新たな村を作ること、そして、二人が想う理想の村に作り上げること

 それを言い残して空のかなたに登っていきました


 二人はその後、龍神の言いつけをしっかり守り、二人が思う理想の村を、

 子供たちの成長を見守り、皆がなにかに縛られたりせず自由に暮らせる、


 そんな村を作り始めました


 最初は二人だけでした。

 ですが子供が産まれて三人に、

 旅をしていた人たちが住み着き八人に、

 良い村があるという噂を聞いて集まった人たちが――


 いつしか村は二人が想い描いた理想の村になっていました





 ――ある年の三月三日


 その後、二人が生け贄として捧げられた雛壇は子供たちで溢れていました。

 雛壇は音楽が鳴り響き、子供たちの成長や愛し合う二人を祝う神聖な場所として村の人に大切にされ続けました。

 その村には、笑顔が絶えることはありませんでした。


 そんな話が雛祭りの裏にはあったのでした。

 人間は過去をもう一度生きることは出来ない、今をしか生きることしか出来ない。

 でも、

 過去を思い出し、未来を想い作ることはできるのです。


 雛祭りにはそんな歴史がありましたとさ

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